それからちょっとたって。
たまに暖かい日があるようになった頃。
加護とすごく仲良くなった頃。
4期メンバーが加入した。
1人目は石川梨華ちゃん。教育係は圭ちゃん。
私より1学年年上で、お嬢様みたいで、声が高い
(市井ちゃんいわく声優さんのよう。だそうだ。)
2人目は吉澤ひとみちゃん。
私と同じ学年で、美人さんだ。でもちょっとかっこいい。
そして3人目は辻希美ちゃん。教育係はカオリ。
まだ中学1年生で八重歯の可愛い女の子。
この子が私に代わって最年少になった。
この10人でしばらくは活動してゆくんだ。
このときはまだそう思っていた。
「ただいまぁぁ。今日ね、辻ちゃんと話したよ。」
『うちと同い年の?』
「そうそう、何か天然っぽくって可愛い。」
『ほぉ、うちと仲良ぉなれそぉ??』
「そだねぇ、加護はツッコミっぽいからね、漫才が出来そう。」
『アイドルちゃうやん!なんでやね〜ん。』
「はは、まぁ私からしてみたら加護の方が可愛いけどね。」
『…何か嬉しいことゆうてくれるやん、でへへ。』
何かツボにはまったらしく加護はお酒を飲んだ裕ちゃんみたく
だらしなく笑った。
そんな加護が最近よく言う質問がある。
『うちがもしモー娘。入れたらうまくやってけると思う?』
加護は娘。にはいりたくてはいりたくてしょうがない普通の女の子だったから
なんかの拍子に私のところにきてしまったんじゃないかって、
最近思い出した。
それからまた少し。
4期の子がたまに敬語じゃない言葉で話しかけてくれるようになった頃。
加護と何でも言い合える仲になってきた頃。
私たち10人はミーティングと言われてある部屋に集められた。
「じゃ、市井、こっち。」
つんくさんとマネージャーさん達。そして市井ちゃんが前に立った。
彩っぺを思い出した。
喉がカラカラになった。
胃が痛くなった。
頭が真っ白になった。
市井ちゃんの顔が見れない。
そして、圭ちゃんのあの一言が頭の中でうずまいた。
「私、市井紗耶香は5月の武道館ライブを最後にモーニング娘。を卒業します。」
にわかにざわつくミーティングルーム。
声がでない。
涙も出ない。
どうして?
どうしてなの?
「い…ち、ちゃ、」
「後藤ゴメンネ。」
涙が溢れた。
「なんや、ごっちん知らんかったんかいな!」
「もうサヤカが言ってると思った…。」
先に知らされていたと思われるメンバーからの言葉。
「後藤さん…。」
手が震えてるくせに背中をさすってくれる辻ちゃん。
心配そうにのぞきこむメンバー達。
そしてまた、
「ゴメン」
私はたまらずに会議室を飛び出した。
どうして?
どうして?
どうして?
私は走りながら考えた。
多分、すごく泣いてたと思う。
ねぇ、どうして?
「後藤!」
圭ちゃんの声がした。
「け、ちゃ…。」
「後藤、あんた…。」
「けぇぇぇぇちゃぁぁぁ…」
私は思わず圭ちゃんに抱きついた。
どうして私はあの時、市井ちゃんの話を聞こうとしなかったんだろう。