石川ファンの方ごめんなさい

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254すー ◆u3wemm2zXw

 ソファーに埋もれるように深く腰掛けた高橋は、窓の外、遥か遠くに霞む
帝国王城の影をぼんやりと眺めていた。
 帝国北の国境に設けられた関所の一室で、無気力に日々を過ごしている。
 かつて帝国の騎士団を従え、王の為に、国の為にその身を奉げ奮闘した日々が、
まるで遠い夢の中の出来事のように思える。
「団長、何か暖かい物でもお入れいたしましょうか?」
 精気の抜け落ちた亡骸のような高橋に、側近が心配そうに声をかけるが、
高橋は黙って焦点の合わない瞳で外を見ていた。

 帝国の現状は高橋も知っている。
 かつての面影は最早無く、魔物が跋扈する廃墟となりはてている事。
 その元凶が宰相飯田である事。
 そして、かつての仲間達。
 紺野は一人帝国に残っている。
 新垣は闇に魂を売り魔人と化した。
 小川……高橋の大切な想い人は、未だ未確認ではあるが恐らく殺されたで
あろう事も、報告が入っている。
255すー ◆u3wemm2zXw :03/03/14 22:29 ID:eJ3dNR9r
「私は……」
 身動きせぬまま、ポツリと口を開く。
「……私のしてきたことは一体何だったのだろう……」
「……団長……」
 側近の騎士は何と言ってよいかわからず、気まずい空気から逃げる様に「お飲み物を
用意いたします」と部屋を出て行った。
「私は……何がしたかった? 何をすべきだった? ……何時からこのような……」
 高橋の左手が無意識に腰に伸びる。
 そこには、かつて自分と共に死地を超えてきた愛剣はない。
 帝国を出る時、小川に渡したままだ。
「私は……」
 高橋の頬を涙がつたう。
 その時、帝国の空を覆うように広がっていた暗雲が、にわかに赤く輝きだした。
「……何だ?」
 高橋は涙を拭うと立ち上がり、窓に駆け寄った。
「団長! 帝国の空に異変がっ!」
 高橋が窓を開くと同時に騎士が飛びこんで来た。
「何があった!?」
「いえ、その……ここの物見塔からでは詳しい事はわかりませんが……」
 騎士と高橋は揃って赤い空を見つめる。
 何が起こっているのかは解らない。が、得体の知れない嫌な気配が胸に広がり、
高橋は不快感に顔をしかめた。
256すー ◆u3wemm2zXw :03/03/14 22:30 ID:eJ3dNR9r

 どしゃっ!
 最後の魔獣が地に伏し動かなくなったところで、市井はふぅと息を吐きキッと
加護を睨みつけた。
「馬鹿っ! 一体何を考えてるんだっ!! ついてくるなと言っただろうが!!」
 市井に怒鳴られ、ビクッと体をすくめ「だって、だって」としゃくりあげる加護。
「あたし達が来なかったらお前等二人とも死んでたんだぞっ! 帝国が今危険な
状況にあるのは何度も話しただろっ!!」
 本気で怒っている市井に、流石に真里も口出しできず、ただ黙って泣きじゃくる
加護を見つめている。

「……ん……」
 その時、辻の眉がピクリと動いた。
「! ののちゃん!? 大丈夫!?」
 肩の傷口に手を当て、癒しの力を使っていたなつみが、辻の体を軽く揺さぶる。
「……ぁ……あたし……?」
「ののっ!」
 まだ状況が呑み込めず、ぼおっとした表情で辺りを見渡す辻を、加護が力いっぱい
抱きしめた。
「ごめん! ごめんな、のの。うちがこんなトコまで連れ出したばっかりに……」
「あいぼん……? あれ? 市井さん達まで……??」
 相変わらず困惑したままきょろきょろと自分に集中する視線を見つめ返す辻。
「ったく……」
多量の出血の為まだ顔こそ青白いものの、目に光りの戻ってきた辻を見て、一同は
とりあえず安堵のため息をついた。