―― 五章 帝国潜入 ――
「……報告は以上です」
「……うむ。ごくろう」
兵士から自軍の現状を聞いて保田は苦い顔をした。
西の都王城、謁見の間。
新垣率いる魔軍の侵攻から四半刻。
すでに日は暮れ、室内には王女保田、反乱軍隊長市井、そして真里の他、
数名の兵士がいるのみである。
「……作戦の変更をしなければならないな……」
被害は西の都正規軍千の内半数が戦死、重軽傷者多数。
戦える者はごく僅かである。
予定では魔に魂を売った帝国宰相を撃つという大義名分の元、全軍を率いて
帝国に攻め入るはずだった。
だが、先手を打たれ新垣等の襲撃をうけたことで、自軍の立て直しを余儀なく
されてしまった。
「だけど、あたしらには時間がない。帝国が万一にも魔神の召喚を実現させて
しまったら……」
市井の言葉に室内は重い空気に包まれた。
「……オイラが行くよ」
沈黙を打ち破る様に真里が呟いた。
「元々一人でカオリを倒しに行くつもりだったし……。帝国が魔物達の巣窟に
なってるとはいえ、カオリの元まで辿り着ければ……」
「……倒せるのか?」
「……儀式の最中なら、スキはある。きっと……」
「違う。宰相の事じゃない」
真里の言葉をさえぎり、保田は立ち上がった。
「あの吉澤と石川という二人の魔人の事だ。あいつらはおそらく儀式中の宰相を
守る為、そばにいるはずだ」
「……」
保田に言われ、真里は口を結び俯いた。
確かにそうだ。
あの二人もカオリが召喚した魔族である以上、カオリを倒されれば魔界に
帰る他ない。
当然全力でカオリを守るだろう。
「あたしも行くよ」
「! 紗耶香!?」
「あいつら、本気になればあの新垣って奴より強いんだろ? 普通にやったんじゃ
まず勝てないけど、あたしがあいつらを抑えてる間に矢口が宰相を倒せばこっちの
勝ちだ」
「そりゃそうだけど……」
「それに」
市井は剣の鞘を握り締めた。
「あいつ……吉澤とかいうやつ、あたしが斬りかかった時笑いやがったんだ。
馬鹿にしたように、な。負けっぱなしってのはどうも性に合わないから」
保田はしばし考えた後、苦笑して頷いた。
「わかった。それじゃ矢口と紗耶香。それに無傷の反乱軍兵士を何人か連れて、
帝国にいってちょうだい。私もなるべく軍の再編を急ぐけど、おそらく帝国に
攻め入る頃には儀式は終わっちゃうだろうしね。少数で潜入し、なんとか
儀式だけは止める事」
「おっけー!」
市井と真里は頷き合い、親指を立てた。
「それじゃ、さっそく出発しようぜ。あたしが目をかけてる奴が何人かいる。
そいつらをつれていこう」
「うん。それじゃ、オイラ達を合わせて六、七人位かな。あんまり数がいても
しょうがないし……」
真里が言うと同時に、扉がバタンと開いた。
「もちろん、なっちも数に入ってんだべな?」
「うちらも行きたいなー。な、のの?」
「へい」
「なっち!?」
「加護! 辻!」
真里と市井が驚いて振り向くと、開け放たれた扉の外になつみ、辻、加護の
三人の姿があった。
☆★☆ 【魔神召喚】セーブポイント VOL.3 ★☆★
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(VOL.2[三、四章]
>>222)
五章「帝国潜入」
>>226-229 (Save@2003.02.27)
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