石川ファンの方ごめんなさい

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197すー ◆u3wemm2zXw

 薄い光に包まれた二人を見て、新垣は驚愕した。
「まさか……覚醒天使……!?」
 全ての人間の体内には等しく祖である天使の遺伝子が存在する事は新垣も
知識として知っている。
 だがその力を覚醒させる事が出来た者は、歴史を振り返っても数えるほど
しか存在しない。
 ゆえに半ばそれは伝説やおとぎばなしの類の、いわゆる現実味のない夢物語
としての認識しかなかったのだが。

 そんな動揺する新垣を見て、紗耶香は剣を握りなおし、静かに間合いをつめた。
 紗耶香もなつみの力に一瞬我を忘れて佇んでいたが、
(あの化物もあちらに気を取られているようだな。先程までの殺気が薄れている。
……今がチャンスだ!)
 紗耶香が地を蹴り、新垣に襲いかかる。
「もらったあぁぁっっ!!」
「!」
 ドッ!!
 紗耶香の振り下ろした剣が新垣の右腕を切り落とす。
「っあああぁぁーーー!!」
 肩口から噴き出すどす黒い血と共に、新垣の絶叫が響き渡った。
「今だ! 私に続けーっ!」
 剣を振り上げ叫ぶ紗耶香の声に呼応して、それまで遠巻きに立ちすくんでいた
兵達が雄叫びを上げ新垣に躍りかかる。
198すー ◆u3wemm2zXw :03/02/08 16:54 ID:BHYaIfYQ

 その様子を眼の端に、なつみは真里の肩をゆすった。
「真里っ! 起きてっっ!!」
「完全に意識を失っている。そんなんじゃ起きないよ。癒しの力を使え、覚醒天使」
「え?」
 聞き覚えの無い声になつみが顔を上げると、そこにはまだ信じられないといった
表情の保田がいた。
「覚醒……天使??」
「正直未だ信じられないが……先程の力は天使の伝承通りだ。あんたは内なる天使の
力に目覚めたのだろう?」
「え? あ、うん。なんか、さっき何時の間にか白い空間にいて、そこにはなっちが
いて……力をくれるとかなんとか……」
「私も実物を見るのは初めてだけどね。あんたが本当に伝承通りの覚醒天使なら、
矢口の意識を呼び覚ます癒しの力も使えるはずだ」
 なつみはきょとんとして保田をじっと見つめた。
「……ひょっとして真里の知り合いだべか?」
 保田は「ああ」と思い出したように頭をかき、
「紹介が遅れたね。私は保田圭。この国の統治者だ。矢口とは数年前に一度だけ
会った事がある」
199すー ◆u3wemm2zXw :03/02/08 16:55 ID:BHYaIfYQ

「せあぁぁっっ!」
 ギィンッッ!
 市井の鋭い斬撃が新垣の左手の鉤爪とぶつかり合い耳障りな音をたてる。
「っちぃっ!」
「なめるなぁぁっ!」
 新垣の振るった鉤爪を紙一重で避ける市井。
 避けそこなった兵士達が数人、紙屑のように切り裂かれる。
「邪魔なんだよぉっっ!!」
 新垣の周囲に瞬時に魔力球が出現し、次の瞬間勢い良く弾け、躍り掛かっていた
兵士達が悲鳴と共に消滅する。
 なつみの覚醒による動揺から立ち直りつつある新垣に、市井達は圧され始めていた。
 鋭い槍のように新垣の体内から放射された触手を後ろに飛んでかわしながら、市井は
冷たい汗を振り払った。
(くっ! やはりあたし達だけじゃこいつに止めを刺すのは無理か!?)
 新垣に注意を払いながら横目で真里達の方を見やる。
(まだかよっ! 早く……!)
200すー ◆u3wemm2zXw :03/02/08 16:56 ID:BHYaIfYQ

「……まずいな」
 保田も市井達が圧され始めているのを見て焦りの色を浮かべた。
「あの化物、徐々に本来の力を発揮しつつある。今この場で魔族の力を得たあいつを
倒せるのは矢口の詠唱魔法だけだ」
 保田は唇を噛み締め、
「覚醒天使! 早く矢口の癒しを」
「なっちだべ!」
「じゃあなっち! 早くっ!」
「っていっても、どうすれば……」
 なつみはおろおろしながら、眠った様に動かない真里の顔をみつめた。
「私には天使の力の使い方はわからない。……さっきあの化物の魔法を防いだのは
どうやった?」
「あれは……真里を助けてって……無我夢中で祈って……」
「それだ! 助けたい者の事を思って強く念じてみろ!」
 なつみは頷くと真里の手を握って目を閉じた。
(お願いっ! もう一人のなっち……真里を目覚めさせてっ!)
 強く祈りを繰り返すなつみ。
 その胸の奥が徐々に熱くなり、やがてぼんやりとなつみの体が白く輝き出す。
 その光りが握った手を通して真里の体を包み込む。
(真里っ……!)
「……ぅ……」
「「!!」」
 真里の口から微かに漏れたうめきになつみと保田はハッと真里を見る。
「……なっ……ち?」
「真里!」
 淡く輝く真里の目がうっすらと開き、ぼんやりとした瞳がなつみの視線と絡み合う。
「……あれ? オイラ……??」
「真里っ! よかった……よかった〜」
 なつみは涙を流しながら真里を抱きしめた。
201すー ◆u3wemm2zXw :03/02/08 16:57 ID:BHYaIfYQ
「! そうだ! 新垣……新垣はっ!?」
「あたっ!」
 がばっと飛び起きた真里に振りほどかれ、ごすっと地面で頭を打つなつみ。
「あ……わりぃ、なっち」
「なにすんだべ真里―っ! さんざん心配かけといてコレかいっっ!」
「あ、いやだからゴメンって」
「あー、いいかしら? お二人さん」
 苦笑いしつつ、怒るなつみとそれをしずめようとする真里の間に入る保田。
「あ、あれ? 保田……王女?」
「久しぶりね、矢口。でも挨拶は一先ず後にして……」
 くいっと後ろを指差す保田。
「あの化物、今はなんとかうちの兵達で抑えてるけど、止めを刺せるのはあなたしか
いないの。……お願いできるかしら?」
 見ると、幾つもの傷を負いながらも、新垣の攻撃は激しさを増している。
「……まかせて。さっきは新垣が魔族の力を得ていたなんて思わなかったから油断した
けど……。今度はきっちりと止めを刺すよ」
 真里は真剣な表情で頷き、新垣を睨み付けて構えた。
「王女となっちは下がってて」
 言われるより早く保田はまだぶつくさ言っているなつみを引きずるようにその場から
後退した。
「……なっち」
「なんだべ?」
 背で受けたふてくされた返事に真里は苦笑し、
「……さっきはありがと。なっちの声、ちゃんと届いたよ」
「あ……うん」
 一瞬きょとんと真里を振り返ったなつみは、ころっと笑顔に戻り、
「さっさと片付けてくるべ! 真里!」
「おうっ!」
 すぐに機嫌を直すなつみの単純さに真里は微笑み、
「さーて、いきますか!」
 すっと手をかざし、呪文の詠唱を始めた。