なつみは無我夢中で真里の元へ走っていた。
ぐったりと地べたに横たわり、身動きしない真里。
(真里っ! 真里っっ!!)
なつみが真里を抱き起こそうとしゃがみこんで手を伸ばした時、すでに眼前には
新垣の放った炎球が迫っていた。
「! っきゃあああぁぁ―――っっ!!」
思わず叫び声を上げるなつみ。
その瞬間、なつみの視界が白く弾けた――。
何も無い、白い世界。
見渡す限りの白の中に、なつみはしゃがみこんでいた。
(え? 何? 何だべさ、コレ)
差し伸べた手の先に、真里の姿はない。
目の前に迫っていた炎球もない。
自分の他に何も無い、白い空間。
「……ひょっとして、なっち死んだの? コレって死後の世界ってヤツだべか?」
ふらりと立ち上がるなつみ。
その時、目の前に微かな煌きと共に白いローブを纏った人が現れた。
「……え?」
それは、なつみだった。
「……なっちが、二人……?」
なつみはぽかんとした顔で目の前の自分を見つめた。
「……やっぱなっち死んじまったんだべか……」
『いいえ』
「え?」
ローブを纏ったなつみが口を開いた。
『ここはあなたの心の中の世界』
「心の……中?」
なつみの呟きにローブを纏ったなつみはゆっくりと頷いた。
『私はあなたの中に生きるもう一人のなつみ』
そう言ってローブをするりと脱ぐ。
「っ!」
なつみは目を見開いた。
ローブの下から現れた裸体の後ろには、白く輝く翼が生えていた。
「な……なにそれ? 翼が……」
『遥か昔、この地上は神の使わした天使達の住む世界だった』
ふわりと翼が揺れ動く。
『やがて神は天に上り、地上に残った天使達は翼を失い人間となった。だが、人として
生きるようになった人間の遺伝子の中には、我ら天使の力が今もなお生きている』
「天……使? 人間が?」
『そう。だが今を生きる人間達はその力を使う事はできない。私も、あなたの中で永遠に
眠り続けているはずだった』
「じゃ、じゃあなんであんたは目覚めたんだべか……?」
なつみが疑問を口にすると、天使のなつみはふっと微笑を浮かべた。
『あなたの、大切な人を思う気持ちが強かったから……かな?』
言って手を軽く振ると、白い空間に真里の姿が浮かんだ。
「! 真里!」
『あなたがこの娘を大切に思っている事は、強く心の中に響いていた』
天使のなつみがすっと手を差し出す。
『さぁ、あなたの望みは何?』
「望み?」
『そう。あなたが今強く望んでいる事を言葉にして。そうする事で私はあなたの力に
なれる』
「……なっち、昔っからどんくさくて何の力も無い、何もできない子だったけど……」
なつみは真剣な眼差しで天使のなつみを見た。
「……真里を救いたい。ホントになっちに眠ってた力があるなら、真里の助けに
なりたい!」
『了解』
にっこりと笑って天使のなつみの手がなつみの額に触れる。
ふっと浮くような感覚と共に白い世界が急激に波打ち、次の瞬間なつみの視界に
迫る炎球が映った。
「!」
なつみはとっさに念じた。
(お願いっ! なっちと真里を守ってっ!!)
なつみの体が薄く輝く。
ドゴオオオッッッッ!!
爆発音が辺りに響き渡った。
だが炎はなつみと真里を覆う白い薄膜を避けるように左右に割れ流れてゆく。
「……すごい……」
なつみは無意識に真里の体を抱きかかえたまま、呆然と呟いた。