ズウウウゥン……。
通りの向こうで起こった爆発に、不安そうな表情で避難をしていた人々の間に、
ざわめきが起こった。
軍人と反乱軍の人達に誘導されながら、辻と加護の二人と一緒に避難所へ向かって
いたなつみも、そちらを振り返る。
「ねぇっ! あっちって、真里達が向かった方じゃないの?」
「そやけど……だ、大丈夫や! 矢口さんてごっつい魔術師なんやろ? 市井さんも
一緒やし……。そや、きっとアレ敵を倒したんやって!」
不安そうな表情をしつつもなつみの手を引く加護。
「だけど……」
爆発の起こった方角を何度も振りかえり、なつみは唇を噛み締めた。
(そうだよね。……真里は帝国の偉い魔術師だし、加護ちゃんが言ってたけど、
その市井さんて人も凄腕の剣士だっていうし……きっとさっきの爆発は真里の
魔法で敵を吹き飛ばしたんだよね……)
必死でそう信じ込もうとするなつみ。
だが、胸の奥でどんどんと嫌な予感が膨れ上がる。
「……真里っ!」
なつみは意を決したように叫ぶと、加護の手を振りほどき、人の波に逆らって
元来た方へと走り出した。
「あっ! ちょっとー!」
加護と辻が慌てて振り返るが、なつみの姿はすぐに人ごみに紛れて見えなく
なってしまった。
(真里! 真里っ!)
嫌な予感を振り払う様に頭を振りながら、なつみは心の中で親友の名を
叫びながら走った。
急な運動に心臓が早鐘を打つ。
苦しくなる呼吸に胸を押さえて瓦礫だらけの角を曲がる。
そしてなつみは見た。
周囲の建物が吹き飛び、開けた空間に佇む巨大な化物。
それを遠巻きに取り囲んだまま立ちすくむ兵士達。
そして、その中心に倒れたままピクリとも動かない真里の姿を――。
「死ん……だ?」
震える声で呟く市井に、保田は「いや」と真里の方を向いたまま指差す。
視線を追って真里を見ると、その小さい体を覆う黒いローブが、所々青白く
光っている。
市井が目を細めて凝視すると、それはローブに縫いこまれた刺繍が光っている
ようだった。
「魔術文字……。おそらく、魔術による攻撃から身を守る為の、ね。だけど……」
倒れたまま動かない真里を見て、保田はゴクリと喉をならす。
「どうやらあの化物の攻撃を全て防ぐ事は出来なかったみたいね。何とか生きてる
みたいだけど……もう一撃くらったらやばい」
新垣がゆっくりと動き始めた。
「まずい! 止めを刺す気だ」
じりじりと新垣を取り囲んだ兵士達が後ずさる。
「紗耶香! 兵士達と共に左右から攻撃を! 矢口は私が」
「わかった!」
震える足を叩き、新垣の側面へ向かって走り出す市井。
(あの化物の意識は矢口に向いてる。なんとか不意を討てば……)
新垣の腕が上がり、再びその周りに魔力が収束して行く。
「真里――――っ!!」
その時、倒れている真里に向かってなつみが走って来た。
「なっ! 何? あの子、避難したんじゃなかったの!?」
走ってくるなつみに気を取られた瞬間、新垣の腕から炎球が放たれた。
「! っきゃあああぁぁ―――っっ!!」
二度目の爆発。
(――終わった)
心の中で呟き、紗耶香は目をつぶった。
爆風が髪をなびかせる。
(間に合わなかった――あたしの行動が遅れたばっかりに、矢口とあの少女が――)
だが、やがてそれが収まり、ゆっくりと目を開いた紗耶香は自分の目を疑った。
そこには、光り輝く薄白い球体に覆われた、真里の体を抱きかかえ呆然としている
なつみの姿があった。