石川ファンの方ごめんなさい

このエントリーをはてなブックマークに追加
175すー ◆u3wemm2zXw
 ズウウウゥン……。
 通りの向こうで起こった爆発に、不安そうな表情で避難をしていた人々の間に、
ざわめきが起こった。
 軍人と反乱軍の人達に誘導されながら、辻と加護の二人と一緒に避難所へ向かって
いたなつみも、そちらを振り返る。
「ねぇっ! あっちって、真里達が向かった方じゃないの?」
「そやけど……だ、大丈夫や! 矢口さんてごっつい魔術師なんやろ? 市井さんも
一緒やし……。そや、きっとアレ敵を倒したんやって!」
 不安そうな表情をしつつもなつみの手を引く加護。
「だけど……」
爆発の起こった方角を何度も振りかえり、なつみは唇を噛み締めた。
(そうだよね。……真里は帝国の偉い魔術師だし、加護ちゃんが言ってたけど、
その市井さんて人も凄腕の剣士だっていうし……きっとさっきの爆発は真里の
魔法で敵を吹き飛ばしたんだよね……)
 必死でそう信じ込もうとするなつみ。
 だが、胸の奥でどんどんと嫌な予感が膨れ上がる。
「……真里っ!」
 なつみは意を決したように叫ぶと、加護の手を振りほどき、人の波に逆らって
元来た方へと走り出した。
「あっ! ちょっとー!」
 加護と辻が慌てて振り返るが、なつみの姿はすぐに人ごみに紛れて見えなく
なってしまった。
176すー ◆u3wemm2zXw :03/01/24 18:15 ID:tdDEjDET

(真里! 真里っ!)
 嫌な予感を振り払う様に頭を振りながら、なつみは心の中で親友の名を
叫びながら走った。
急な運動に心臓が早鐘を打つ。
苦しくなる呼吸に胸を押さえて瓦礫だらけの角を曲がる。
そしてなつみは見た。
周囲の建物が吹き飛び、開けた空間に佇む巨大な化物。
それを遠巻きに取り囲んだまま立ちすくむ兵士達。
そして、その中心に倒れたままピクリとも動かない真里の姿を――。

「死ん……だ?」
 震える声で呟く市井に、保田は「いや」と真里の方を向いたまま指差す。
 視線を追って真里を見ると、その小さい体を覆う黒いローブが、所々青白く
光っている。
 市井が目を細めて凝視すると、それはローブに縫いこまれた刺繍が光っている
ようだった。
「魔術文字……。おそらく、魔術による攻撃から身を守る為の、ね。だけど……」
 倒れたまま動かない真里を見て、保田はゴクリと喉をならす。
「どうやらあの化物の攻撃を全て防ぐ事は出来なかったみたいね。何とか生きてる
みたいだけど……もう一撃くらったらやばい」
 新垣がゆっくりと動き始めた。
177すー ◆u3wemm2zXw :03/01/24 18:16 ID:tdDEjDET
「まずい! 止めを刺す気だ」
 じりじりと新垣を取り囲んだ兵士達が後ずさる。
「紗耶香! 兵士達と共に左右から攻撃を! 矢口は私が」
「わかった!」
 震える足を叩き、新垣の側面へ向かって走り出す市井。
(あの化物の意識は矢口に向いてる。なんとか不意を討てば……)
 新垣の腕が上がり、再びその周りに魔力が収束して行く。

「真里――――っ!!」
 その時、倒れている真里に向かってなつみが走って来た。
「なっ! 何? あの子、避難したんじゃなかったの!?」
 走ってくるなつみに気を取られた瞬間、新垣の腕から炎球が放たれた。
「! っきゃあああぁぁ―――っっ!!」
 二度目の爆発。
(――終わった)
 心の中で呟き、紗耶香は目をつぶった。
 爆風が髪をなびかせる。
(間に合わなかった――あたしの行動が遅れたばっかりに、矢口とあの少女が――)

 だが、やがてそれが収まり、ゆっくりと目を開いた紗耶香は自分の目を疑った。
 そこには、光り輝く薄白い球体に覆われた、真里の体を抱きかかえ呆然としている
なつみの姿があった。