「あっはっは! 殺せ殺せーっ!」
新垣の指揮の元、魔物達が逃げ惑う群集を次々に引き裂いていく。
中には果敢に武器をもって立ち向かう者もいるが、何の修練も積んでいない者達と
魔界の生き物とでは戦闘能力に差がありすぎる。
一人、また一人と生命を奪われ、肉塊となって地に伏してゆくその情景はまるで
地獄絵図だった。
人の波をかき分け辿り着いた市井と真里は、そのむせ返る血の臭いに顔を歪めた。
おびただしい血に染まった路上の魔物達が、新たな獲物の出現に歓喜の雄叫びを
上げ押し寄せてくる。
「こいつらっ!」
怒りの眼差しでそれを睨みつけながら、市井が剣を抜き魔物の一匹に斬りかかる。
「あたしが前衛を務める! サポートお願いっ!」
「わかった!」
市井の声に真里が呪文の詠唱を始める。
その時、不意に飛んできた火球が真里をかすめ爆発した。
「!!」
「あれ? 惜しい惜しい」
慌てて真里が振り向くと、そこには邪悪な笑みで佇む新垣の姿があった。
「お前っ! 新垣か!?」
「久しぶりですね、矢口さん。やっぱり生きてたんですね」
笑みを浮かべたままゆっくりと近づいてくる新垣。
「……お前がやったのか? これ」
新垣を睨みつけたまま問う真里に、新垣はクスクスと笑い、
「やったのは魔物達ですけどね。ま、指揮してるのは私です」
「っ! てめえっ!」
「やだなぁ、怒らないでくださいよ。命令したのは宰相様なんですから。それに」
わざとらしく肩をすくめる新垣。
「帝国を捨てて逃げ出した矢口さんにはどうこう言われる筋合いないですから」
真里は歯軋りして構えると、新垣に向けて魔力を収束させ、
「だからってこんな事して良い訳ないだろうがあっっ!」
叫び声と共に魔力を開放する。
瞬間、新垣を中心に魔物数体を巻き込み、轟音と共に空間が爆発した。
弾け飛ぶ魔物の残骸。
だが砂煙が晴れると、そこには笑みを浮かべたままの新垣がいた。
「なっ!」
唖然とする真里に新垣が口を開く。
「本来詠唱を伴う事で威力を発揮する魔術を、己の魔力のみで発動させ、詠唱による
タイムラグを無くす……普通の人間にはほぼ不可能といっていい技術です。さすがは
元帝国一の魔術師ですね」
言いながら、じりじりと真里との間合いを詰める。
「でもその分威力は通常より劣る……。普通の人間や低レベルの魔物相手ならそれでも
効果はありますが、今の私には効きません」
新垣は数歩の距離まで近づくと不意に立ち止まり、灰色のローブの胸元をはだけた。
「っ! お前、それ……」
それを見て真里は絶句した。
新垣の控えめな乳房の間、丁度心臓の辺りに肌と同化し脈打つ拳大の肉塊が
貼りついている。
「……魔族との……融合……」
「はい。あ、もちろん低俗な魔物なんかじゃありませんよ」
新垣の唇の端がニィッと歪む。
「『魔人』との、融合です」