視線の先に西の都がせまる。
空と地上を進む黒い軍勢は、その勢いをますます上げていた。
新垣は不敵な笑みを浮かべ、手を上げた。
それを合図に取り囲む様に飛んでいた魔物達が散開する。
「いけっ! 帝国に刃向かう愚民どもは皆殺しだーっ!」
新垣の声に魔物達は奇声を上げ、街へ突入していく。
そして新垣も自ら操る魔物の手綱を引くと、高度を落としていった。
西の都は王女保田率いる自由国家である。
帝国の介入を受けず、独自の軍事力を有しながら開国以来中立を守ってきた
大陸唯一の国だ。
「王女保田かぁ。数年前に一度会った事あるけど、オイラの事覚えてるかなぁ?」
都の市街地を歩きながら、真里は頭の上で手を組んだ。
街の中は、おそらく難民であろう人の群れでごった返していた。
「大丈夫でしょ。あの人はああ見えて頭のきれる方だし、記憶力もいい。今まで
帝国が手出しできなかったのも、単純に軍事力が互角ってだけじゃなく、
戦略家としても優秀なあの人がいたからこそだし」
市井は心配無用とばかりに手を振る。
「あたし達がまだ個別に帝国に対するクーデターを画策してた時も、保田さんは
真っ先に裏から手を回して反乱軍を組織してたしね。大陸に魔物が出没し始めた時、
それが帝国の仕業だっていち早く気づいたあの人は、すでに行動を開始してた。
そんなすごい人だからあたしもこの人についていこうって、反乱軍に参加
したんだけどね」
「それで、保田さんは今は表立って帝国に敵対を?」
「うん。今まで中立を守ってたがゆえに表立った行動はできなかったんだけど、
帝国が魔物達を操ってるって確証ができたから、ついに先日国を上げて帝国に
敵対する決意をしたんだ」
真里はそうなんだ、と頷くと、小さくガッツポーズをした。
(軍事力では帝国とも互角と言われていた西の都が動いた……か。これならカオリが
魔物の軍勢を組織しても充分渡り合える。これでオイラはカオリだけを目標に
すればなんとかなる……)
真里は魔物達に阻まれ時間を稼がれる間にカオリの儀式が完成してしまう事だけが
不安だった。
だが魔物を反乱軍がひきうけてくれれば、自分は単独でカオリだけを狙う事ができる。
そうすればロスしてしまった時間が少しは取り戻せるはずだ。
(カオリが魔神召喚の儀式を始めたとはいえ、儀式を完成させるにはまだ時間が
必要なはず……。保田王女にすぐに反乱軍を動かしてもらえれば、勝機はまだ
充分にある……)
その時、真里達の進む方角で、爆発音と共に人々の悲鳴が響き渡った。
「っ! なんだぁ?」
市井は真里と目を合わせると、担いでいたなつみを辻と加護に受け渡す。
「あんたらはここでまってな! ちょっと様子を見てくる!」
言って市井と真里は頷き合い、騒ぎの方向へ駆け出していった。