石川ファンの方ごめんなさい

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143すー ◆u3wemm2zXw
 真里はため息をつき、天を仰いだ。
 真里となつみの出会った島は、大陸の南に位置する。
 そして南から上陸すれば、大陸の中心にある帝国まですぐだったのだが、ここからだと
馬を使っても結構な距離がある。
 少しでも時間が惜しい真里にとっては手痛い遠回りだ。
「……まぁ、でも命があっただけでもよかったのかな」
「まぁね。あの嵐の中生きて大陸にたどりつけただけでも幸運なんじゃない?」
 真里の事情を聞いた市井は、笑って相槌を打つ。
「それに、あんた自分一人で宰相を撃つ気だったみたいだけど、帝国行く前にあたしらに
会えて良かったと思うよ」
「え?」
 眉をひそめる真里に、市井は真面目な顔をした。
「今、帝国はやばい状態になってる。潜入してるスパイからの情報によると、宰相は
魔物達の軍勢を組織し、騎士団に代わって王城の警護と侵略を開始したらしい」
「なっ! じゃあ、帝国はもう魔物の巣窟になったってこと?」
 頷く市井に真里は唇をかんだ。
「それと……これはまだ噂の段階なんだけど、宰相はついに魔神の召喚儀式を始めたって……」
「!!」
 市井の言葉に、真里は驚愕した。
(そんな……。早すぎる。オイラがいない間にカオリはそこまで計画を進めていたなんて……)
 脳裏にカオリが浮かぶ。
 真里の予想では、カオリが召喚術師としてそこまで力をつけるには、まだ時間がかかるはずだった。
 否、たとえ力をつけたとしても、魔神の召喚は不可能。そう思っていた。
(だけど、あのカオリが何の算段もなしにそんな事するはずない。……何か、魔神を
召喚する方法を、少なくとも儀式を成功させる可能性のある何かを思いついたんだ……)
144すー ◆u3wemm2zXw :03/01/10 18:54 ID:T1zRDjyB
 真里は焦りに拳を握り締めた。
(何か……方法はないか? 儀式を止められなくても、その邪魔をして時間を稼がないと……)
「っ! そうだ!」
 真里は思いついて市井を振り向いた。
「帝国にスパイが潜入してるって言ったよね!? 今すぐその人に連絡とれる?」
 市井は真里の剣幕に驚きながらも、頷いた。
「とれなくはないけど……どうするの?」
「騎士団の団長と副団長に伝えて欲しいの! オイラが行くまで、何とかしてカオリの
儀式を邪魔してくれって!」
 真里の頭に二人の騎士の顔が浮かんだ。
 高橋と小川。あの二人なら、こちらの味方になってくれる!
 だが、真里の言葉を聞いて市井は力無く首を振った。
「無理。その二人なら、もう帝国にはいない」
「……え?」
「騎士団長の高橋なら、北の国境へ追いやられた。副団長の小川はその日から消息不明」
 落胆する真里をよそに市井は「さて」と立ち上がると、再びなつみを抱えた。
「んじゃ、いこっか」
「へ? どこに?」
「とりあえず西の都に戻るよ。あんたもついてきな」
 言うと、何時の間にか輪を離れて砂浜で砂遊びをしていた辻と加護を呼ぶ。
「ほらー、あんたたちも戻るよ」
 そして開いた片手を真里に差し出す。
「こんな状況だからね。あんたも少しでも仲間がいた方がいいっしょ? 元帝国の人間とはいえ、
優秀な魔術師さんなら、あたしらにとっても味方に欲しい所だし、ね」
 そう言って市井は笑顔でウインクした。