Intermisson 「悪の共闘!QとK」
昼下がりの東京国際空港。そこに降り立った、一人の老人がいた。
その顔は一見すると品の良さと知性を感じさせたが、しかしそれでいて
偏屈な気性をものぞかせる面持ちである。赤いベレー帽を被り、灰色の
コートに身を包んだその出で立ちは老画家のようでもある。事実老人は
絵画をたしなむが、彼は画家ではない。
やがて老人は空港のロビーでふと立ち止まり、辺りをゆっくりと見回す
とまた緩やかな歩調で歩き始めた。老人にとって、久々の日本である。
と、彼の傍らを小さな陰が横切る。それは幼い子供だった。周囲の
物珍しさにはしゃぎ回る子供、ほほえましい風景。だが、その時。
「ハーックショイ!!」
ロビーに響き渡る大きなクシャミ。その主は老人だった。それから堰を
切ったように彼のクシャミは続き、なかなか収まる気配がない。それは
単なるクシャミではなく、まさに「発作」であった。辺りの人々の視線が
集中する中、老人は何処かへと姿を消した。
一方、こちらは悪の秘密結社ゼティマの下部組織、デスターのアジト。
今日もドクターQとその秘書シルビア、そしてQの愛娘リタの三人が
悪巧みを巡らしていた。
「バイクロッサーどもが現れてから、魔神ゴーラの吐いたダイヤが悉く
砂に変わりおる!これではゼティマも我らデスターも儲からん」
苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てるドクターQ。彼が自らの科学力
を傾注して作り上げたロボットは、みなバイクロッサーの前に敗れ去っていた。
彼らの悪事が破綻してしまうと、せっかくのダイヤも台無しになってしまう。
なぜなら、魔神ゴーラの吐き出すダイヤは子供たちに笑顔が戻るとその魔力を
失い、砂になってしまうからだ。これではゼティマへの上納金も自らの富も
手に入らない。頭を抱えるドクターQ。しかしそんな彼をそっちのけで、
デスター女性陣の口論が今日も始まった。
「あんたが無能だからお父様も苦労なさるのよ?判ってるの?」
「うるさいわね!あんたに言われる筋合いはないわ!!」
シルビアとリタは互いに仲が悪く、ことあるごとに口げんかが絶えない。
愛娘と秘書との板挟みもまた、ドクターQにとっては頭痛の種であった。
ついには掴みかからんばかりの大げんかに、さすがにドクターQの堪忍袋の
緒が切れた。
「お前たち、いい加減にせんか!!」
部屋中に響き渡るドクターQの怒声で、ようやく女二人の口げんかは
収まった。
「組織への上納金と我らの利益、この二つを確保するために儂は助っ人
を招聘した。わざわざスペインまで行ってな」
「スペイン?」
ドクターQの言葉に首を傾げるシルビアとリタ。
「お父様ぁん。旅行ならそう仰ってくれればいいのに」
そう言ってリタはドクターQに甘えてみせる。次は自分を連れて行って
欲しいと言わんばかりに。
「儂とて遊びに行ったわけではないぞ。スペインに旅行に行ったと聞き
後を追ったが、放浪癖のある御仁なので苦労したわい。まもなくここに到着
するだろう」
やがて、3人のいる部屋のドアがゆっくりと開く。と、その向こうから
姿を現したのは、発作的なクシャミですっかり鼻を真っ赤にしてしまった
あの老人だった。
「紹介しよう。彼こそプロフェッサーK。子供を泣かすことにかけては
まさに天才といえるだろう」
そう紹介された老人−プロフェッサーKはゆっくりと3人の方へと
歩み寄ると、やがてドクターQと握手を交わした。
プロフェッサーK。彼は犯罪組織「テンタクル」の首領であった。だが
幼稚園バス乗っ取り作戦の後、やむにやまれぬ事情によりテンタクルは
解散、Kは一人スペインへと傷心旅行に出ていた。しかし、彼の噂を
聞きつけたドクターQに口説かれ日本に帰ってきたのだ。
「儂にとって子供とはアレルゲンなのだ。こうして儂がドクターQと
出会ったのは天意かも知れん。お互いの利害がここまで一致するとは」
そう言ってプロフェッサーKは意地悪そうな笑みを浮かべる。彼は重度の
「子供アレルギー」であり、症状を緩和、回復させるためには子供の鳴き声を
必要としていた。それ故に独力での世界征服すら可能にできるほどの科学力を
持ちながら、彼はその英知のすべてを子供をいじめることだけに傾けてきた
のだ。
一方のドクターQも、魔神ゴーラの像からダイヤを吐き出させるために
は、多くの子供の涙を必要としていた。そして、両者には共通の敵がいる。
そのために手を組むことはこの上ない利益を両者にもたらす。かくして
両者の利害は一致し、この共闘となった。
「儂は既に組織を畳んだ身。しかし、アトリエに連絡をくれればいつでも
協力しよう。儂の技術があればデスターがゼティマを凌駕することも不可能
ではない」
「それはちと言葉がすぎよう・・・フフフ。我々が手を組めば、この世は
子供たちの鳴き声であふれ、魔神ゴーラの像はますますダイヤを吐き出す
だろう。楽しみなことだ」
満面に笑みを浮かべてドクターQは言った。ここに、子供をいじめる
ため「だけ」に悪事をはたらく、二大巨頭の連合が成立した。
「ドクターQよ、早速だが儂のスペイン土産を受け取ってもらいたい」
プロフェッサーKの突然の申し出。彼はドクターQに手土産があるのだと
言う。
「ほう、それはありがたいことだが一体何かね?」
邪悪な笑みをたたえて言うドクターQ。最高のパートナーを得て今や
上機嫌の彼に手渡された設計図。これこそがKの言う「スペイン土産」で
あった。それはこれまでのロボットとは違う、強力な新戦力の誕生を予感
させた。
「これは驚いたわい。いつの間にこんなものを」
「すでにお前さんのロボット理論は完成しておった。だからそれに
少々儂の色を付けてみたまでよ」
「素晴らしい。これは完成が楽しみだわい」
悪の二大巨頭が手を結び、その結晶として誕生した新型ロボットの
設計図。この新型ロボットが現実のものとなり、世界征服の尖兵として
姿を現すのは、果たしていつか?!
Intermisson 「悪の共闘!QとK」 終
以上簡単ではありますがインターミッションを終わります。おかげさまで
一日おいた間に思いがけず筆が進み、一本できあがりました。頃合いを
見計らってまた来たいと思います。