仮面ライダーののX

このエントリーをはてなブックマークに追加
40ナナシマン
 一方、ひとみと梨華は物陰からこの戦いの様子を見ていた。

 「よっすぃ〜、今の見た?雷が落ちたよ?」

 「初めて見るタイプだ・・・少なくとも敵じゃないようだけど」

 自分たちの仲間〜改造人間の少女達とは違う、新しい戦士の戦いを
目の当たりにした二人。戦いが終わったことを確認すると、急いで
戦士の元へと駆け寄る。

 「あなたも・・・ゼティマやダークと戦っているの?」

梨華のその言葉に、青い戦士は答えた。

 「ゼティマとかダークとかは知りませんが・・・『悪』と戦うこと
を誓ったのは間違いありません」

そんな青い戦士〜イナズマンの言葉に梨華は言った。

 「私たちの仲間に会ってみない?きっと力になってくれるよ」

 梨華の言葉にひとみも頷いてみせる。その時、イナズマン−里沙は
あの少女の言葉を思い出した。
41ナナシマン:02/11/01 09:35 ID:BBH+VAAG
「あんたにふさわしい仲間たちがいるとしたらどうする?」

「仲間」。それは今の里沙にとってはあまりにも不確かな言葉だった。
この数日間、里沙が手に入れた絆はデスパー軍団によって悉く
断ち切られてしまっていたからだ。

 頼るべき人を目の前で失った。見ず知らずの女性のために、信頼と
裏切りとの間で綱渡りを演じる羽目になった。だが、このまま誰も
信じないで、誰の助けも借りずに地上で生きていくことは出来ない。
ガイゼル総統と戦うことも難しいことだろう。黙ったまま考え込む
里沙。と、その時。

 「チェンジ1・2・3!」

 かけ声とともに変身ポーズをとる二人の少女。そして次の瞬間、里沙
の目の前に現れたのは体色が赤と青の半分に分かれた異形のロボットと
ピンク色の女性的なフォルムを持つロボットの姿だった。突然の出来事
に面食らってしまった里沙ーイナズマン。

 「これで信じてくれたかな?」

 「『同じ運命と闘う仲間』って、私たちの仲間は言ってたの」

 そう言って互いに顔を見合わせる二人の人造人間−キカイダーと
ビジンダー。しかし、自分たちの発した言葉に何故かきょとんとした
顔を見せる。
42ナナシマン:02/11/01 09:35 ID:BBH+VAAG
 「『運命』って言葉の意味が・・・実はよく判らないけど」

 その理由をこんな風にキカイダーは言った。そもそも、人造人間に
仲間と言う言葉や、運命という概念が存在するかどうかは判らない。
人間と同じようにそれらを理解する「心」と呼ぶべきものはは、まだ
生まれてはいないのかも知れない。
 そんな二人を所詮人の作りしモノ、と言うのは容易いだろう。
しかし、二人の持つ「良心回路」は決して空の器ではない。彼女たち
なりの咀嚼や理解によって満たされていくものもある、と言うこと
かも知れない。

 一方里沙にしてみれば、地上に出てきてからこれまで不確かな感覚
だった、仲間と言う言葉に対する確信が生まれた瞬間だった。あの夜に
出会った少女の言葉は嘘ではなかった。同じ運命の苦難に立ち向かう
少女達は本当にいたのだ。その瞬間、イナズマンの身体が再び電光に
包まれる。やがて収束した光の向こうに、一人の少女の姿が現れた。

 「新垣里沙です。私も・・・私も皆さんについていきます!」

 里沙の目に強い決意の光が宿る。二人の人造人間も、その言葉に
力強く頷いた。
43ナナシマン:02/11/01 09:38 ID:KB+M+Dgs
 一方、こちらはデスパーシティ、ガイゼル総統の館。ファントム団
の残党狩りを終えたデスパー軍団の戦士達が、報告のために総統の元を
訪れていた。

 「ファントム団の残党を捕獲しました。いかがいたしましょう」

 捕獲した異形のロボットを伴って現れたのは、デスパー軍団の戦士、
マシンガンデスパーとノコギリデスパーの二人だった。そして彼らに
捕らわれた異形のロボットは、全身バラの花に覆われた姿をしていた。

 「こいつ以外にはもう生き残りはいない。ところでウデスパー、
この『女』面白いものを持っていたぞ」

 そう言ってマシンガンデスパーはウデスパー参謀に何かを差し出した。

 「これは・・・ロケットではないか」
 「いかにも。まずは開けて見るがいい」

 ウデスパーの無骨な手で開かれるロケット。パチン、という小気味よい
音と共に現れたのは、少女の写真だった。

 「これはもしや!!女、名は何という?」
 「聞いてどうする・・・」
44ナナシマン:02/11/01 09:39 ID:KB+M+Dgs
 参謀の問いに口答えしてみせるミュータンロボ。すると、すぐさま
両脇のデスパーロボが拳を振り上げて打ち据える。再びウデスパー参謀
が尋問する。

 「女、もう一度聞くぞ。貴様の名は?」
 「バラバンバラ」

 バラのロボットは苦しそうに一言だけ答えた。おそらくミュータンロボ
としての名であろう。ミュータンロボとデスパーロボは、両者とも新人類
と呼ばれる超能力者を改造したものである。

 「フン・・まぁよい。バラバンバラよ、本来ならファントム団は閣下
の憎むべき敵だ。だが、貴様だけは生かしておいてやる」

 打ち据えられてうずくまっていたバラバンバラは、ウデスパー参謀の
思いがけない言葉にゆっくりと顔を上げた。

 「娘が恋しかろう。いずれ会わせてやろうと思うが、どうだ?」

 その言葉にハッとするバラバンバラ。傍らで聞いていたガイゼル総統
の口元に残酷な笑みが浮かんだ。
45ナナシマン:02/11/01 09:39 ID:KB+M+Dgs
 数日後、郊外のとある墓地。そこに、霊前に手を合わせる里沙と
新しい仲間達の姿があった。デスパー軍団によって運命を狂わされた
一人の女。その亡骸は、稲葉貴子の計らいによってこの墓地に葬られる
こととなったのである。

 「荒井の友達だったっていう女から電話があってな。親友を殺された
ことは一生許せへんけど、さりとて親友を憎みきることもできん言うて」

 貴子に電話をしたその女−末永真己はデスパー軍団の工作員であった
過去を告白し、知りうる全ての情報と引き替えに身の安全を保証すると
いう司法取引の後、身柄を確保されたという。FBIは彼女がゼティマ
にスパイとして潜入していた経歴を持つことを重要視し、この条件を
提示したという。

 「沙紀さん・・・総統は必ず私が倒します。もう誰にも復讐なんて
考えて欲しくないから」

 復讐心を超え、その禍根を断つために。世界を脅かす悪の脅威と、
自らに課せられた運命を克服するために里沙は戦い抜くことを誓った。

 自由の戦士として変転能力を得た少女、里沙。再び彼女を襲った辛い
別れの後、里沙はついに本当の絆を手に入れた。しかし、新たな悪の
陰謀と、逃れ得ぬ宿命の戦いが里沙を待ち受けていることを、まだ知る
よしはない。


第29話「紅い暗殺者」 終