369 :
名無しX:
(11)
「やっぱり間違いだったのかな・・・」
疲れた表情をした安倍なつみが河川敷にとめた愛車カブトローに
背中をもたれかけ座り込んでいた。
「昨日のパトロールさぼっちゃったし、高橋ちゃん怒ってるだろうなぁ」
この二日間安倍はこの近辺をとにかく走り回っていた。
それこそ昼夜を問わず、寝食も忘れて駆けずり回ったのだ。
その行動ははたして意味があったのか、安倍自身にも全く確信が持てていなかった。
それでも安倍はそうせずにはいられなかったのだ。
それが彼女が自らすすんで改造人間になった理由でもあるのだから・・・。
370 :
名無しX:03/01/14 23:35 ID:amd/lPmC
二日前、高橋とのパトロールの一時間ほど前の事だ。
安倍はドーナツを食べながら呑気にテレビを見ていた。
テレビではワイドショーのリポーターが河川敷を歩きながら何やら話している。
そのリポート自体は取るに足らない内容だったのだが、画面の隅に映った
映像に安倍は固まった。
それはリポーターの後ろを通り過ぎた少女の横顔だった。
ほんの一瞬、しかもカメラからかなり離れていたためその表情すらろくに確認できない程度にしか
映っていないのだが安倍の黒い手袋をした手からドーナツを落とさせるだけの威力を秘めていた。
「まさか・・・でも・・」
371 :
名無しX:03/01/14 23:36 ID:amd/lPmC
見間違いの可能性は十分ある。
しかしもし『彼女』だとしたら・・・・。
「とにかくあの河川敷にいってみるべさ」
これが安倍がパトロールをすっぽかした理由だった。
かつて『彼女』と一緒に撮った一枚の写真を持って河川敷近辺で聞き込み
を続けたが何の成果も得られず今に至るのだ。
「やっぱり見間違いだったんだ。帰って高橋ちゃんに謝ろう。」
そう独り言を言っては見たが、なかなか諦めがつかずに立ち上がることができない。
川向こうのショッピングセンターやボーリング場をボーっと眺めながら時間だけが過ぎていく。
そしてついに安倍は立ち上がった。
「もうちょっと、もうちょっとだけ探してみよう。」
結局まだ諦めがつかなかったようだ。
372 :
名無しX:03/01/14 23:38 ID:amd/lPmC
(12)
「あいぼん、最近の怪人って随分強くなってないれすか?」
「せやな、うちら二人がかりでもこのざまやからな」
仮面ライダーののと亜依。二人は窮地に陥っていた。
高橋の仇を打つのだと勢い込んで出てきた二人だが、現状を見ると
返り討ちにあっているとしか言い様の無い状況へと追い込まれていた。
「だからののが応援を呼ぼうって言ったのに・・あいぼんは意地っ張りなのれす。」
「そんな事言ったかて、もう遅いやん。サイクロンは工場の外に置いてきてしもうたんやから」
二人は蜘蛛ナポレオンを発見しこの廃工場まで尾行してきたのだ。
もちろん加護も応援を呼ぶことを考えなかった訳ではない、
しかし皆には目を覚まさない高橋の看病に専念して欲しかったのだ。
そして自分の力で仇を討ちたいという思いもあった。
それはもしかすると加護の若さ故の傲慢だったのかもしれないが・・・。
373 :
名無しX:03/01/14 23:39 ID:amd/lPmC
「ふはははは。飛んで火に入る夏の虫とはこの事だな、ライダーども。」
蜘蛛ナポレオンの高笑いが廃工場にこだまする。
確かに彼にとってはこの状況は願っても無いものだった。
探していた女には逃げられ、倒した獲物であるXライダーも矢口にさらわれるという
失態を演じてしまった彼にとって、この二人のライダーを倒すことで
なんとか本部への体裁を保つことができるというものだ。
戦闘員に取り囲まれた状態で、背中合わせにファイティングポーズをとるダブルライダー。
しかし必殺のライダーキックすら蜘蛛ナポレオンには通用しない事が
先ほどからの戦闘で実証済みだった。
「きっとゼティマの怪人はこれからどんどん強くなっていくんれしょうね。」
「せやな、そのうちもっと完全な奴とか出てくるんかもしれへんな」
「力が欲しいれすね・・もっと力が。」
「・・・・・・・せやな。」
374 :
名無しX:03/01/14 23:40 ID:amd/lPmC
二人にとって今、先のことを考える余裕などあるはずもなかった。
現状を打破する策も見つからず八方塞がりのこの状況で
あえてこんな会話をするのは現実逃避とも言えなくはないが
二人の深層心理のなかにここで死ぬ事は無いという思いがあったとも考えられる。
根拠などはもちろん無いのだろうが、数奇な運命を辿っている彼女達には
自分の命の行き着く先が本能的に見えているのかもしれない。
事実、二人を取り囲んでいた戦闘員たちは次の瞬間には
一斉に姿を消すことになる。
二人と運命を共にする仲間たちによって・・・。
375 :
名無しX:03/01/16 00:52 ID:nCLx9vIE
(13)
ダブルライダーは背中合わせでそれぞれが戦闘員達と向かいあっていたが
辻の眼前から戦闘員が突然居なくなった。
「?あれ、急に敵が消えたのれす」
辻が素っ頓狂な声をあげる。
「はぁ?のの何言ってんねん・・・ってこっちも消えたわ。」
一瞬辻のほうに振り向き、その後正面を向いた加護も間抜けなリアクションをとる。
もちろん消えたわけではない。
正確には辻の前の戦闘員は 『引っ張られていった』 のだ。
そして加護の前の戦闘員は
『吹っ飛ばされていった』 が正解である。
376 :
名無しX:03/01/16 00:53 ID:nCLx9vIE
「ロープアーム」
辻の前から消えた戦闘員達がライダーマンのロープアームに引っ張られ宙を舞っている。
「V3キーック!」
加護の前から消えた戦闘員はV3の放ったキックを喰らい数人まとめて吹っ飛び爆発した。
「辻加護!勝手なことばかりして!帰ったら祐ちゃんにお説教してもらうからね。」
「皆心配してたんですヨ」
矢口からは厳しい声が、ミカからは優しい声が二人に届く。
それが辻加護の 『ここでは死なない』 根拠だったのかもしれない。
そう、信頼できる仲間達の存在そのものが。
377 :
名無しX:03/01/16 00:54 ID:nCLx9vIE
「矢口しゃん、ミカちゃん!」
辻が情けない声をあげる。
「なんで此処がわかったん?そ、それより愛ちゃんは?」
加護が一番の心配事について矢口に詰め寄る。
「こら加護!助けられておいてなんでそんなに偉そうな口調なんだよ。」
矢口がやれやれといった表情で加護の肩越しの方向を指差した。
「愛ちゃん!」
矢口に指差された方向に振り向くとそこにはまだ変身もしない状態の
高橋が蜘蛛ナポレオンと向き合っていた。
「愛ちゃん無事やったんか。矢口さん何やっとるん?はよ加勢しにいかなあかん。」
加護が声を荒げる。当然の反応だろう。
しかし矢口は慌てず騒がず加護の肩をたたきこう言った。
「まあ、おとなしく見てなって。」