342 :
名無しX:
第31話(でいいのかな?)
(1)
「さっきの話考えてくれました?」
「え?あぁ・・まぁ・・ね。ただ・・ちょっと・・ね・・。」
この季節としては暖かな日差しのが差す平日の午前中。
国道沿いの歩道を、両手に買い物袋をさげた小柄な少女達が並んで歩いている。
矢口真里とミカ・トッドだ。どうやら二人が今日の買出し当番のようだった。
「絶対役に立ちますよ。あれは私の自信作なんですから。」
ミカが自信満々でなにやら矢口に話しているようだが矢口の方はどうも歯切れが悪い。
「うん・・まぁ・・そうなんだけど・・おいら的には・・何というか・・あ!ミカちゃん、あれなっちじゃない?」
343 :
名無しX:03/01/11 00:50 ID:5Zkt2s4a
二人の歩く前方の交差点をバイクが猛スピードで駆け抜けていった。
「ずいぶん飛ばしてますね。・・って矢口さん話逸らしてません?」
「そ、そんなことないよ、いやだなぁ。と、ところでワールドカップ盛り上がったねぇ。」
「いつの話ですか!やっぱり話逸らしてません?」
「いやだなぁ、そんなこと無いよ・・・と、ところでさぁ・・」
「・・・・・」
344 :
名無しX:03/01/11 00:52 ID:5Zkt2s4a
(2)
エレベーターの扉が開き、目の前に数台のバイクが並ぶフロアーに少女は降り立った。
薄暗いそのフロアーに人影は無い。
「おかしいなぁ、安倍さんどうしたんやろ?」
ここは『加護生化学研究所』の地下にあるライダーマシン達の格納庫である。
「今日は私たちがパトロール当番なのに・・・」
少女の名は高橋愛。仮面ライダーXである。
彼女は、今日一緒にパトロールに出かけるはずだった安倍なつみを探して、研究所内をぐるっと一回りした後
この格納庫にやってきたのだ。
「安倍さ〜ん。どこにいるんですか〜」
一応呼んではみたものの、やはり返事は無い。
345 :
名無しX:03/01/11 00:54 ID:5Zkt2s4a
まだメインの照明をつけていない格納庫は薄暗く、辛うじてその特徴的なシルエットから
自らの愛車『クルーザー』だと把握できるバイクの側までたどりついたその時、
バイクの裏から何かが勢いよく飛び出してきた。
「うわぁっ」
愛は突然の事に驚き、無様にしりもちをついた。
「あははは。やっぱり愛ちゃんはびっくりした顔がよく似合うわぁ」
「か、加護さん・・・・」
暗闇から飛び出してきたのは屈託の無い笑顔でケラケラと笑う加護亜依だった。
「あはは。ごめんな愛ちゃん、ちょっと驚かしたってん。
でももう加護さんはやめてーな、皆みたいにあいぼんでええのに。」
「は、はい・・でも・・と、ところでこんな所で何してたんですか?」
「あんなぁ、うちのサイクロンが調子悪くってな、ちょっと整備しとってん。
そしたら安倍さんが血相変えて飛び込んできてな。」
346 :
名無しX:03/01/11 00:56 ID:5Zkt2s4a
「安倍さんが?」
「そうやねん。どうしたん?って聞いたら、急用ができて今日のパトロール行かれへんから
愛ちゃんに伝えてって言われてな。それでうち愛ちゃんを待っとったねん。」
「そうだったんですか・・・安倍さんどうしたんやろ。」
「さぁ?随分慌てとったけど・・・」
安倍の突然の行動は今に始まった事ではない。
死んだあさみに言わせると『行き当たりばったり』が安倍の行動パターンである。
いつもの事だと言われればそれまでだがなぜか高橋には気になった。
「さて、ほなぼちぼち行こか。」
「え?行こかって・・」
「パトロールに決まっとるやろ。うちのサイクロンまだ直ってへんから
後ろに乗せてな。」
「は、はい。」
一見すると普通のバイクのように姿を変えた『クルーザー』の後部座席にちょこんと
座った亜依が前席の愛の腰にしがみつく。
「レッツゴー」
安倍のことが気にかかる高橋だったが加護の楽しげな声につられて
地下格納庫から地上へと向かうスロープを走り出した。
347 :
名無しX:03/01/11 01:02 ID:5Zkt2s4a
(3)
『はい、撮るよ〜準備はいいかな〜』
楽しげではあるが無機質な機械の合成音が二人に準備を促している。
「あ、ちょっとまって、まだまだ。ねぇ愛ちゃん、うちの目ちゃんと二重になっとる?」
「う、うん。なっとるよ。」
「そっか。よっしゃ、準備ええで。スイッチ・オ〜ン」
『カシャッ!撮れたよ〜』
機械の合成音が撮影終了を告げる。
「あははは、きれいに撮れた。でも愛ちゃん、もっとかわいいポーズとらなあかんやろ。」
「・・・加護さん、パトロール中にプリクラなんてやってていいんでしょうか。」
そう。ここは郊外にあるボーリング場に併設しているゲームセンターである。
加護の半ば強引な提案でパトロール開始早々プリクラ撮影になったのだ。
348 :
名無しX:03/01/11 01:04 ID:5Zkt2s4a
「ええねん。ののとはいつも一緒にプリクラしとるで。」
「はぁ・・でも未成年だし補導されたら・・」
「大丈夫大丈夫。稲葉の姉ちゃんにもろたバイクの免許(偽)があるやないか。
うちらは18歳って事になっとるんやから。」
「まあ、それはそうですけど・・・!!え、何?」
「悲鳴?」
改造人間である二人の耳が同時に悲鳴らしき声を察知した。
「ほら来たでぇ。これを警戒してここにおったんや。」
「・・・それはともかく急ぐがし。」
「ボーリング場のほうやな」
二人はプリクラの機械から飛び出した。
349 :
名無しX:03/01/11 01:06 ID:5Zkt2s4a
(4)
「あの女は何処だ?隠し立てするとためにならないぞ。」
平日で人もまばらなボーリング場にドスの効いた声が響き渡った。
カウンターの店員が怪人になにやら詰め寄られているようだ。
「か、隠してなんかいません。さっきまでその辺にいたんですが・・」
戦闘員に取り囲まれ、怪人に胸座を捕まれた店員は恐怖で顔面を蒼白にしながら涙声で話している。
「待てぇい。その人を離せ!」
加護が勇ましい声をあげた。
350 :
名無しX:03/01/11 01:08 ID:5Zkt2s4a
突然のその声に振り向いた怪人の姿は蜘蛛以外の何物でもない。
それだけであれば怪人のお約束ともいえる姿なのだが特徴的なことに
その頭部には、つばが上を向いた形の帽子が被さっていた。
「なんだ貴様らは!」
言うが早いかその怪人『蜘蛛ナポレオン』は加護と高橋に向かって
白い蜘蛛の糸を吐き出した。
「うわっ!なんや?」
加護の体は怪人の吐き出した白い糸に絡めとられてしまった。
「しもたぁ、動けへん。愛ちゃ〜ん、なんとかしたって〜」
辛うじてその糸をかわした高橋愛は素早くボーリング場全体を見渡すと
数人いた客や店員に逃げるよう促しそれを確認した上で変身体制に入った。
「セタップ」