舞台は変わって秩父地獄谷。
人跡も絶えたかに見えたこの地に数名の供の者達を引き連れた、謎の
老人の姿があった。青白い死霊のような顔に白いひげが覆い、片方の眼には
機械の眼が埋め込まれている。老人が歩を進めるたびに、谷を渡る寒風に
黒いローブが怪しくはためく。ゼティマ拳法の開祖テラー・マクロがついに
日本に到着したのだ。
すぐさまテラー・マクロは出迎えたドラゴンキングと共に道場へと
入っていく。その道すがら、テラー・マクロはドラゴンキングに言った。
「黄金の鍵、奪われたそうだな?あれがなければ、この地に眠る火の車
を動かすことは出来ぬ」
師の言葉に一気に顔色をなくすドラゴンキング。遠く離れた地で、既に
師は全てを知っていたのだ。事を取り繕うのをあきらめ、弟子は全てを
打ち明ける。
「火の車の事、ゼティマに知れたか・・・やむを得ん。まもなく
五人衆が鍵の持ち主を捜し出し、連れて来るであろう。お前は儂と共に
『魔神の血の儀式』を執行せよ。しかる後、汚名を濯ぐ機会をやろう」
師の言葉に深々と頭を下げるドラゴンキング。かくして彼らは、道場の
奥にある儀式の間へと消えていった。
ちょうどその頃、仮面ライダースーパー1こと飯田圭織は、希美と二人
で大掃除用品の買い出しに商店街に来ていた。
二人仲良く手をつないで街を歩く。心は姉と妹の気分の二人。しかし
見た目は母と娘、背丈は親子ほどにも違う。希美の事を愛おしそうに
眺めながら、圭織は必要な買い物を確認してみる。
「ねぇ、のんちゃん。ヨゴレオチール買ったし、新しい雑巾買ったし、
あと掃除機のフィルター買ったら何か買うものあった?」
「んーと・・・んーっと」
精一杯思い出そうと努力する希美。しかし、彼女の知る限りではもう
買い物はなかったように思えた。そんな彼女に刹那の閃きが走る。
そして口をついて出た言葉は・・・
「8段アイス!!」
「ちょっとのんちゃーん、それは頼まれた買い物じゃないよぉ」
「アイス!アイス!いいらさん、アイスがいい!」
そう言って希美はつないだ手を激しく振る。手の痛さとかわいらしさ
両方に根負けした圭織は仕方ない、といった表情で言った。
「もう・・・わかった、買ってあげるから。帰りにいつものところに
寄ろうね?」
しばらくして、念願の8段アイス片手にご満悦の希美を連れて、圭織
はバイク−Vマシンを止めた駐車場に来ていた。通常はドラッガータイプ
のアメリカンバイクにカムフラージュされているので、それがVマシン
だと暴露されるおそれは少ない。希美がアイスを食べ終わったら、圭織は
二人で家路に着くつもりでいた。
「のんちゃん、それ食べたらおうちにかえろうね?」
「へい」
口の周りにはクリームがべったり。そんな希美の口を、ハンカチで
拭いてやる圭織。何ともほほえましい風景。しかし、そんなひとときを
ぶちこわす、無粋な輩が二人の前に現れた。
「ゲゲゲ・・・飯田圭織、いや仮面ライダースーパー1。お前達、
こんなところで油を売ってていいのか?」
そう言って姿を現したのは、ゼティマの怪人ナメクジ男と奇戒人ガンガル
だった。
「黒龍会がお前達を狙っているぞ。早く家に帰った方が良くないか?」
ナメクジ男の言う「黒龍会」、その言葉に思い当たる節があるか思い返して
いる圭織。そんな彼女の前に身を乗り出したのは奇戒人ガンガルだ。鍵を持って
いるなら寄こせ、そう言わんばかりに不気味に手を伸ばす。
「おとなしく黄金の鍵を差し出せ。そうすれば連中も手出しはしない」
更に思い返してみるが、どうしても思い出せない。ガンガルは言葉を続ける。
「さもないと仲間の身の安全は保証しない・・・って、聞いてるか?」
「えっ?!」
どうやら、まともに聞いていなかったらしい。呆れて二の句の継げない怪人
二人。気を取り直し、ガンガルとナメクジ男は言った。
「・・・とにかく鍵のことを知っているなら、おとなしく渡すことだ!」
「次に会うときまで、お前達の命はしばし預かる!」
そう言うや、怪人達は不思議なほどおとなしく立ち去っていった。
「いいらさん・・・」
「うん。ウチに帰ってみよう。何かあってからじゃ遅いから」
圭織は希美にヘルメットを渡すと、後ろに乗るように促す。そして自らも
ヘルメットを被ると、Vマシンを飛ばして家路を急いだ。
同じ頃、「ペガサス」。そこに、年末の大掃除に励む瞳とあゆみの姿が
あった。雅恵とめぐみももちろん大掃除に加わっていたのだが、昼食時が
近いと言うこともあり、近くのコンビニまで買い出しに出かけたのだ。
本日は年越し準備のため開店休業状態。しかし、そんなペガサスを訪れた
者がいた。黒いコートを被った、ちょっと怪しげな男の客である。
「すいません、捜し物があって来たんですが・・・」
そう言って男は店の中へ入ろうとする。
「ちょっと今店の者は出払っているんですが、ご用件お伺いしましょうか?」
掃除の手を止め、瞳が言う。すると男はにやりと笑って一言言った。
「あなた達のお友達が受け取った・・・鍵を捜してるんですがねぇ」
「はっ?!」
男の言葉に危険を感じ、瞳とあゆみはすぐさま店を飛び出そうとする。だが、
店の入り口近くから現れたゼティマの怪人、蜘蛛男と蝙蝠男に行く手を
阻まれてしまった。そして二人の目の前で男はコートを脱ぎ捨てると、そこに
現れたのは外の連中と同じくゼティマの怪人、シーラカンスキッドだった。
「もしお前達が持っていなくとも、仲間が持っているのはお見通しだ!
此奴らを地獄谷へ連れて行け!!」
一方、加護生化学研究所。
黄金の鍵の正体を突き止めるべく解析を急いでいた亜依とミカだったが、
調べれば調べるほど謎は深まるばかりだった。
まず鍵の作られた年代を調べてみると、これが中国のものだとすると実に
周の時代にまで遡ることが判った。中国は文明誕生の地の一つであることは
今更言うまでもないが、それにしても当時ここまで見事な装飾技術があった
かどうかは謎である。それは「オーパーツ」と呼ぶに相応しいものだった。
また、材質は純金と各種貴金属による装飾であることがはっきりした。
歴史的価値だけでなく、美術品・貴金属としても非常に価値があることだけ
は間違いないようだ。
「価値のある物、ってことは判ったんやけど・・・」
「何に使うのかが全然判りませんネ」
頭を抱える二人。と、そんな彼女たちの元に、資料を抱えてあさ美が
やってきた。裕子が家で調べて判らなかった分を、外部資料を収集する
ことで補っていたのだ。
「二人とも、これ見てくれませんか?」
そう言って彼女は、プリントアウトした用紙の束を机の上に置く。亜依と
ミカはその一枚一枚に目を通し、驚愕した。
「これは一体?!」
「この鍵がゼティマの手に渡ったらえらい事になる」
そんな二人を前に、手元の資料に視線を落としながらあさ美が言った。
「これは『空飛ぶ火の車』という古代中国の兵器の動かすためのもの
みたいですね」
伝説によればこうである。
遙か昔、後に皇帝となる人物が自らの覇道成就を祈願して、一万人もの
生け贄を天帝に捧げる事を約束した。すると天帝は彼の願いを聞き入れ、
龍神を象った黄金の車を与えたという。それは輪に囲まれた金の龍の姿を
しており八方より火を噴き、回転して空を飛んだと言われている。また、
龍の口からは炎を吐くと言われ、それを駆る者は龍神の使いと恐れられた。
やがてこの「空飛ぶ火の車」を手に入れた彼は軍を率いて各地を転戦し、
敵対する者を次々とこの兵器で葬りつづけて約束の生け贄とし、大陸を平定
することが出来たという。
「その後、皇帝は家来に命じて空飛ぶ火の車を東の未開の地に隠したと
書いてあります。何日もかけて海を渡り、ある場所に隠したそうです」
「紺野ちゃん、それって・・・」
亜依の言葉に静かに頷くと、あさ美は言った。
「日本のどこかに、この超兵器が隠されていると言うことです。ゼティマ
みたいなヤツらの手に渡ったら、日本は滅びてしまうかも」