仮面ライダーののX

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229ナナシマン
 そして、舞台は再び日本。
 朝の日差しが差し込むリビングで、家計簿とにらめっこしている女が一人。
電卓の数字とレシートの束とを交互に見比べながら、ため息が一つ。

 「今月もギリギリだぁ・・・こんなんで年越せんのかな?」
 
 そう言って彼女は手にしたボールペンをくるくると回してみる。辛うじて
赤字だけは免れたものの、厳しい台所事情が続くことは間違いなさそうだ。
やがて彼女〜石黒彩は憂鬱な気分を振り切るように家計簿を閉じる。その
音がリビングに響くと、彼女はキッチンに向かう。朝食の準備のためだ。
逼迫した家計故に贅沢はできないが、せめて心のこもった食事を、と願う
彼女は、努めて店屋物や出来合の総菜ではすませないようにしている。
奥の寝室で眠りについている少女達のことを思いながら、彩は冷蔵庫のドア
を開ける。とその時、彼女の目に覚えのない異様な食材が映った。
230ナナシマン:02/12/31 15:13 ID:v6OaKGcL
 「うわっ!?蜂の子とかカミキリムシの幼虫とか誰が食べんのよ。これ
採ってきたの圭ちゃん?何族の食卓なのよ、全く」

 冷蔵庫を開けたとたん、袋詰めにされた幼虫が視界に飛び込んだ。
思わず絶句する彩。それがいつのまに入れられたものなのかは判らなかった
が、同居している少女たちの一人、仮面ライダーアマゾンこと圭が家計の
足しになればと山から採ってきたものだと言うことはすぐに理解できた。
彩にしてみれば気持ちはありがたいのだが、出来れば都市生活者が容易に
食べれるものが欲しいというのが本音だ。

 「その前はイノシシ一匹だったのよね。あのコ泥だらけになってイノシシ
担いできてさ、玄関で見たときは新手の怪人かと思ったよ」

 そんなことを考えながら彩は袋をいったん退かすと、その奥にあるハムの
切れ端が入ったビニール袋に手を伸ばす。袋の中には数種類のハムの切れ端
がたくさん入っている。その中からひとつかみのハムを取り出すと、彩は
まず鼻先にそれを持っていく。

 「変なにおいは・・・しないね。まぁ、一昨日買ったヤツだから大丈夫か」
231ナナシマン:02/12/31 15:14 ID:v6OaKGcL
 続いて彼女は冷蔵庫の野菜室からほうれん草を2把ほど掴むと、手早く
水洗いして刻んでいく。やがて、刻んだほうれん草にさらにもやしを加え、
先ほどのハムの切れ端を加えた具をフライパンで炒める。

 それから数分後、具に火が通ったのを確認した彼女は、卵を取り出すと
次々とそれをボウルに開け、なれた手つきでかき混ぜた後、先ほどまで
具を炒めていたフライパンに注ぎ入れた。薄く広がった卵に程よく火が
通ったところで具を投入。

 「オムレツ上手は愛情上手〜♪だっけ?憶えてないけど」

 歌声も軽やかに、朝食の準備が進んでいく。こうしてほうれん草とハム、
もやしの具のオムレツが次々とできあがる。後はトーストとコーヒーの準備
をするだけだ。ご飯が食べたい娘のために一応電子ジャーにはご飯も炊いて
ある。コーヒーはインスタントより豆だよね、などと考えながら、彩は
コーヒーメーカーを準備する。程なくしてコーヒーの薫りがキッチンから
漂い始めた。
232ナナシマン:02/12/31 15:15 ID:v6OaKGcL
 寝室の方から人の気配がする。誰かが目を覚ましたのだ。眠い目をこすり
ながら現れたのは、よく見ると裕子だった。

 「あ・・・あぁ、おはよう裕ちゃん。誰かと思ったよ」

 「彩っぺおはよ。最近飲んでないから朝早くって・・・コーヒーの薫りで
目ぇ覚めてね・・・。手伝うことある?」

 はれぼったい瞼。彼女は少女達の戦いが始まってからと言うもの、自身が
入手した関係資料と毎晩格闘していた。それはひとえに、正面切って戦えない
生身の身体の自分でも彼女たちのために出来ることをしたい、と言う切なる
願いの現れであると彩は思っている。彼女はそんな裕子の心中を察すると
いたたまれない気持ちになる。だがこの気持ちの良い朝のひととき、出来れば
戦いのことは忘れていたい。彩は気を取り直すと笑顔で言った。

 「そうだね、じゃウチのお寝坊娘たちを起こしてきてくれないかな?」

 清々しい日曜の朝の日差しですら、寝室の眠り姫を目覚めさせるには不足
らしい。裕子はその言葉に黙ってうなずくと、寝室へと戻っていく。
233ナナシマン:02/12/31 15:18 ID:yAFwZB+0
 裕子に起こされたせいなのかは判らなかったが、早速起き出してきた少女が
2人。ひとみと梨華だった。殆どが改造人間である他の少女達と違い、人造人間
の二人は目覚めがやたらと良い。もしかしたら眠っていないのかも知れないが。
そんな二人の姿を認めた彩は、笑顔で声を掛ける。

 「二人ともおはよ。他のコ達は?」

 「今、中澤さんが一人ずつ起こしてるはずですけど・・・」

 と、梨華がそう言いかけたその時だった。

 「いやァ!ちょっ・・・イヤァァァ〜っ!!」

 突如寝室から聞こえる少女の悲鳴・・・声の主は真里だった。しかし、その
悲鳴の理由をリビングの三人は知っていた。割と普通に。

 「ねぇよっすぃー、どうしよう?」

 「どうするって言われても・・・」

 困惑する二人に、いつものことだから、といった風な顔をして彩が言った。

 「裕ちゃんの頭一発殴って来な。どうせまた『目覚めのチュー』とかしてる
に決まってるんだから。真里も真里だよ、裕ちゃんといる時はマッパで寝るの
止めなって言ってるのに・・・」