銃を構えてその少女を調べに1人の隊員が近づいていった。そこに隙が出来た。妻は隊員に
体当たりを見舞うと、娘と夫に逃げろと叫んだ。その声に、残りの2人の隊員が振り向き、銃を
向けた。そして反射的に妻に向かって引き金を引く。銃は唸りをあげて妻に鉛の弾を吐き出す
が、妻を庇うように夫が覆い被さる。しかし、弾は夫の体を貫きその下に居る妻にまで襲い掛
かった。血飛沫が、少女の頬を濡らす。ヌルリとした血の感触が、眠っていた少女のスイッチ
を入れた。
目覚めた少女は、自らの体を拘束していた鎖を、何の抵抗も無く引き剥がした。鎖の束が地
面に落ち、けたたましく鳴り響く。銃声は止み、治安部隊は一斉に少女の方を振り向く。今、
この場所で聞こえるのは、両親を無くした子の泣き声だけだった。
198 :
保全:02/12/22 23:58 ID:nN9nZmht
龍騎鯖威武
メリークリスマス保全
ishikawanomankonametai200
少女が久しぶりに見た世界。全身を白いプロテクターで覆った、銃を構えた人間が3人。
地面には命を失った夫婦。そして、泣きじゃくる子供。何かを確かめるように、少女は自分の
体に目を落とした。幸いな事に、衣服は身に纏っていた。上着には、レザージャケット。下に
は、ホットパンツ。そしてショートブーツ。カラーは黒で統一されている。
まだ、霞がかかった頭の中で少女はふと思った。
(一体どっちの趣味なんだろ?)
2人の男性の顔が頭に浮かぶ。初老の男と若い男。しかし、名前は思い出せないでいる。
銃を突きつけられているのだが、それを全く厭わないように今度は部屋を見渡した。
少女には、ほんのちょっと前のような感じがするのだが、とても荒廃している。
なんでだろう?
少女は何か、懐かしいような感じがした。同時に、何か大切な物がそこにあったかのような感
覚。少し前の事を思い出そうとしてみた。やはり、なにか霞がかかったようで思い出せない。
そして、今この現実である。銃を突きつけて立っている、白い人間。血まみれの夫婦。子供
の泣き声…。隊員の1人が少女に再び銃を突きつける。
瞬間、少女の思考に稲妻が走った。
白い人間。動物や植物を掛け合わせたような怪物。そして、機械剥き出しの人間のような物。
実家の居酒屋を手伝っている時に、いきなり平和が崩れ去った瞬間。
目の前で崩れ去る母親。私と逃がそうと、命を投げ出した姉達。
幸いにして、家に居なかった弟。
そして…。そして…。どうなったんだっけ?何で私はここに居るんだっけ?
分らなかった。稲妻のように走った記憶は、再び霞に覆われてしまった。
少女は、自らの名前を思い出そうとする。私の名前…。
そんな少女に銃を突きつけて隊員は叫ぶ。
「貴様、一体何者だ!!」
隊員は、突きつけたまま少女ににじり寄る。
1人の隊員の銃口が少女の眉間に、こつりと当たった。
「私の名前…。」
少女は何かを言おうと口を動かす。隊員たちも少女が名乗ると思ったのだろう、しかし
見事に裏切られた。少女が左手で銃を掴み、グッと右下に引き込むと、隊員は体のバランスを
崩した。無防備に晒された頭部に、少女の拳がめり込んだ。多少の衝撃には耐えられるヘルメ
ットごと、頭の半分近くまで拳がめり込んだ隊員は、瞬間的に絶命した。
残りの隊員が少女に向かって引き金を引いた。
弾は少女と、背後にある壁に突き刺さった。止む事の無い弾の雨は、少女の姿を煙で包む。
銃声が止み隊員が近づいていくと、おもむろに頭をつかまれた。
それは、先ほどの少女の腕ではない。
どこからか一陣の風が吹き、煙を洗い流した。
そこに立っていたのは、黒き異形。
剥き出しの脳は半透明のカバーで覆われており。
血の色をした眼に、稲妻を模したマーキング。
暗闇色の体。
まさに異形。そして伺う事のできる表情は、一言で言えば『怒り』であろう。
「私の名前は。」
元は少女であった、その異形は隊員の頭部を持ちそのまま持ち上げると。
グッと力をこめた。
「ハカイダー。」
まるで、トマトが握りつぶされるような音がして、その隊員は地面に崩れ落ちた。
間の前で仲間を瞬時に殺されてしまった隊員は、踵を翻し出口に向かって一目散に
走りだした。圧倒的な力の差を見せられては、いくら元老院によって教育されたとしても
逃げざるをえない。
ハカイダーはゆっくりとその隊員に向かい歩き始めた。隊員はすぐに出口へとたどり着いた。
そのままの勢いで部屋を出ようとしたがそれは叶わなかった。先ほど入ってきた時には止まっ
ていなかったバイクがそこにあったからだ。バイクを凄い勢いで蹴るような形になった隊員は
その場に蹲ってしまった。いくらプロテクターを身に着けているとしても痛かったようだ。
しかし、いつまでも痛がっている場合ではなかった。こちらに向かってくるハカイダーに
向かい、隊員は銃を乱射した。それは無駄だと知りつつも撃つしかなかった。だが、隊員の
予想に反しハカイダーは横を通り過ぎた。バイクの前で何かを確認するとハカイダーはそれに
跨った。
「た、助かった…。のか?」
震えながら呟いた隊員の後ろで、バイクの咆哮が空気を振るわせる。その音に反射的に振り向
いた隊員が目にしたものは、ショットガンを突きつけるハカイダーの姿だった。それが、隊員
の見た最後の世界だった。
ハカイダーはバイクに跨ったまま考えていた。機械が考えると言うのはおかしいのだが、
ハカイダーは確かに考えていた。さっき隊員に問われた時に反射的に出てきた名前…。
『ハカイダー』
この姿はハカイダーと言う名前だったはずだ。バイクのミラーに映るこの黒い異形はそう言う
名前だった。確か私がつけたんだっけこの名前を…。そしてその異形は私。私が私に名前をつ
けた?それじゃあ、私は…。ハカイダーという名前を与えた私の名前は…?
もう一度バイクのミラーを覗き込むと、異形ではなく少女の姿があった。特徴的な鼻、少し魚に
似ている顔、茶髪の長い髪。そう、コレが私の姿。私、私の名前は…。
頭の中で何かがはじけた。白い意識の濁流に飲み込まれていく感じがして、頭を抱えた。
「私の名前は…。後藤…真希…。私は誰なの…?」
仮面ライダーののX
〜特別編〜
人造人間ハカイダー
Act.1 終了
これ以上スレを占拠するのはよくないと思ったので、区切りのいいところで
一旦終了させていただきます。なるべく早く完成させてまた戻ってきます。
わがまま言って申し訳ありません。
206 :
神崎優衣:02/12/26 21:57 ID:cELqrVja
保全しないと、消えちゃうの・・・
俺の闘う理由・・・
保全だ!
208 :
神崎士郎:02/12/27 19:51 ID:/iyDyTJ6
心配するな、優衣。このスレが消えることはない。
ご無沙汰してました。
>>白い名無し娘。さん
これから、と言うところでいったん終了というのが正直惜しいです。
続き、楽しみにしてますよ。
僭越ながら、保全の意味も込めまして「冬休み劇場」と題して番外編に
入らせて頂ければと思います。ただ、まだ全部書き上がっていませんので
完成なさった作者さんが居られましたら言ってください。
冬休み劇場「仮面ライダーのの 破れゼティマ拳法・地獄谷の死闘!」
雲一つ無く晴れ渡った、日曜の朝。
暖かい日差しが朝の冷たい空気を少しだけ和らげてくれる、そんな気持ち
の良い朝の出来事だった。
リサイクルショップ「ペガサス」は本日休業日。めぐみと雅恵はこの休日
を利用して、近くの公園で開かれるフリーマーケットをのぞきに行くことに
した。めぐみの提案で先週から言っていたことだったが、二人は当初の予定
よりもだいぶ遅れて出発することになってしまった。言い出しっぺのはずの
めぐみが、朝寝坊してしまったのだ。
「『狙ってるものがあったら朝早くから出かけること。それがフリマの掟
よ』って言ってたの、誰でしたっけ?もう8時半だよ」
本来時間のことをうるさく言う方ではないのだが、それでも1時間半も
待たされた雅恵は少々お冠のご様子。それに対してめぐみはバサバサの髪も
そのままに、眠い目をこすりながら言う。
「自分だって起こしてくれたら良いじゃないよぉ。それなのにさぁ」
雅恵は開場の朝7時に備えて6時半には目を覚まし、特別興味もない朝の
釣り番組を見ながらめぐみが起きてくるのを待っていた。しかし、その後
始まった通販番組に登場した「ハリ○ッドダイエット」なるダイエット食品
にすっかり目を奪われ、めぐみを起こすのを忘れていたのである。それは
ダイエットをライフワークとまでとらえていた、雅恵の性であった。
「でもさぁ終了はお昼だし、今からでもまだ何かあるかも知れないよ?」
「ったく・・・掟はどうしたの、掟は」
そんなことを言いながら、支度をすっかり終えた二人はフリーマーケット
の開かれている公園へと向かった。
すっかり葉も枯れ落ちた銀杏並木。暖かい日差しの中を冷たい北風が吹き
抜けていく。目指す公園は角を曲がったすぐのところにある。時折かじかむ
手をこすりながら二人は通りを歩いていた。
すると、その時二人の目の前に一人の男が姿を現した。ぼろぼろの衣服を
纏った、あまり綺麗とは言えない身なりのその男は、おぼつかない足取りで
二人に近づいてくる。
「ちょ、ちょっとまってよ」
男の不審な挙動に、二人はじりじりと後ずさる。息をのむめぐみと雅恵。
すると、男が何か話しかけてきた。
『この鍵を・・・この鍵を守ってくれ・・・』
しかし、二人とも彼の言葉の意味がわからずに、引きつった顔を互いに
見合わせる。男の言葉は二人には通じていない。そう、彼は日本人では
無かったのだ。
そして男は必死の形相で雅恵の手に何かを強引に握らせる。突然の
ことに不安で顔をこわばらせる雅恵。ゴツゴツとした固い何かを無理矢理
手のひらに押し込まれ、それを拒否できない。
『これは大事なもの・・・黒龍会には渡さないでくれ・・・』
「やだっ・・・ちょっとお!!」
男の手を振り払って逃げようとするが、男は何事かを呻きながら握った
手を離そうとはしない。とうとう雅恵はあきらめて男から固い何か−それ
が「鍵」であることはまだ判らずにいる−を受け取った。すると、その
様子を見届けた男は一瞬安堵の表情を浮かべると、まるで糸の切れた人形
の様にがっくりと崩れ落ち、二度と立ち上がることはなかった。
「キャアアアアアア!!」
朝の静かな空気を引き裂くような少女の悲鳴。めぐみと雅恵はまさに
脱兎のごとく駆け出し、その場を後にした。