津軽海峡を渡る連絡フェリーの上。
ユウキは1人船室を抜け出し、デッキにいた。
夜の海をぼんやり眺めながらこれまでのことを考えていた。
ユウキとマキには父親がいなかった。いわゆる母子家庭である。
姉弟二人は仲が良かった。というよりユウキは姉が大好きだった。
子供の頃は姉が行く所にユウキはどこへでもついて行った。
時々姉は父親がいないことが理由でいじめられることがあった。
そんな時ユウキは体を張って姉を助けようとした。
「お姉ちゃんは僕が守るんだ」
それがユウキの口癖だった。
結局いつも逆に姉に助けてもらうことになるのだが・・・
ユウキは中学に進むようになると悪い仲間と付き合うようになっていた。
相変わらず姉のことは大好きだったが、仲間の手前あまりベタベタすることはしなくなった。
思春期でもあった。
悪い仲間に誘われて時々外泊をすることもあった。長い時には一週間も帰らないこともあった。
姉が行方不明になった時もユウキは仲間の家にいた。
仲間の家でふざけあっている時にに近所のおばさんが泣きながら飛び込んできた。
ずいぶん探していたらしい。
ユウキはその知らせを聞いてその場に崩れ落ちた。あとで聞くと呼吸も出来ないぐらい動揺していたらしい。
雑用のアルバイトに行っていた研究所が爆発事故を起こし、消息が分からないのだという。
研究所の跡地から黒焦げの男性2人・女性1人の遺体が見つかった。
警察も消防も姉が爆発事故に巻き込まれて死亡したものと断定した。
ユウキは自分を責めた。たとえ家にいたところで助けられるものではないだろう。
しかしユウキはあの時遊んでいた自分を許せなかった。
葬式が済み49日の法要も終わり家の中が落ち着いて来たころ、おかしな噂が流れ始めた。
事故の後「姉を見かけた」という人が何人も出はじめたのである。
中には「間違いない」とまで言うものまでいた。
母親はその噂を信じようとしなかった。
いや、一番信じたかったのかもしれない。しかし遺体が出たのである。
それに変に期待をもって後で落胆したくないのであろう。
ユウキはあの遺体が姉のものとは思えなかった。
理由は判らない。だかあれは姉では無い。実は母親も「あの死体、本当に真希なのかねえ・・」
と何度も言っていた。
その遺体が姉のものだと信じたくないわけではない。何か違和感が有ったのだ。
警察の鑑定では同一人物だと言っていたが証拠資料は見せてもらえなかった。
「あれはお姉ちゃんじゃない、お姉ちゃんは生きている」
ユウキは段々そう信じるようになった。
目撃談を集めるなど、自分で調べ始めた。
目撃情報が集中する場所があった。
郊外の山の山道の入り口辺りである。この山は戦時中トンネルが掘られ、
司令部として使われていた。今は立ち入り禁止となっている。
幽霊が出るという話もよくある場所である。
まさか、幽霊だったのか?・・・
ユウキは時間ができるとその山に行き、辺りを調べるようになった。
そのうちトンネルの入り口を発見した。入り口は厳重に封鎖されている。
いかにも「何か出そう」な雰囲気だった。
「幽霊でもいい、もう一度お姉ちゃんに合えるなら・・・・」
ユウキはバリケードを壊し、トンネルの中に入っていった
しばらく進むと突然けたたましい警報音が鳴り響いた。
慌てて引き返そうとするとトンネルの奥から足音と人の声がした。
ものすごい勢いでソニンが走って来た。