「お。皆、揃ってるんやな」
「裕ちゃん」
「三人の様子を見てきた。よう眠ってたで」
「そう……」
飯田さんも保田さんも、気に掛かっていたことは同じだったのだろう。
その一言に、ほっと胸を撫で下ろした。
「スープ、これ飲んでいいの?」
「うん、もちろんだよ」
私達が席に着いてカップを手にし始めると、どうにか皆もそれに続いてくれた。
続く沈黙に、相変わらずの重い空気。
ふうっとスープに息を吹きかけると、温かい湯気が顔を包んだ。
その優しい感触に、思わず泣いてしまいそうになる。
スープの温かさでさえ、今の私達には疲れを認識させる代物でしかなかった。
「ずっと気になってたんだけど」
一口だけ飲むと、すぐに話を切り出したのは安倍さん。
カップを両手に包んで、俯いている。
「何で、裕ちゃんたち二人が居たの?」
ワゴンの前に当然のように立っていた二人。
私達だって何の疑問を持たないわけではなかった。
安倍さんの質問に、全員が面を上げる。
「うん、気になってるやろなって思ってた」
カップから口を離して、中澤さんは市井さんの方を向いた。
視線を合わせた市井さんが、静かに首を横に振る。
「今話しときたいことやけど、全員が揃ってへんし……。明日、話すわ」
それだけ言うと、中澤さんは逃げるようにカップに口を付けた。
「話しにくいこと、か。 じゃあ、明日聞かせてもらうけど」
返事に不満なのか、やや早口に安倍さんが言う。
一連の様子を見ていた保田さんは、場を収めるように、
「せっかく作ったんだし、冷めない内に飲んじゃおうよ。ね?」
と皆を促した。
保田さんの言葉に、私もようやくカップに口を付ける。
飲み込んだスープは舌の上を確かに通り過ぎたはずなのに、味がしなかった。
(かき混ぜるの、足りなかったのかな……)
ぼんやりと、どうでもいいことを思い浮かべた。
胃に流れ込んだ液体が染み込んでいくのと同時に、疲れが湧き上がってくる。
そんな感覚を覚え、声を出さずに一つだけ小さなため息を吐いた。
包み込むように持った手の中のカップが、少し熱い。
息苦しい空間ではっきりと存在を主張するその熱さを、私は大事に握り締めていた。
作者さん乙です。
更新だ。わーこれからどうなるんだろう。作者さん頑張れ。
----------<<吉澤>>----------
「すみません、あの、もう休んでいいですか?」
残ったスープも冷めかけた頃、そう言って新垣が手を挙げた。
声こそはっきりしているものの、顔色が相当に悪い。
すぐに紺野と圭ちゃんに付き添われ、部屋へと戻されていった。
「皆も疲れてるやろ。 早めに休んだ方がええんちゃう?」
三人を目で追っていた皆を見て、中澤さんが促す。
その言葉を待ち侘びていたように、私達は次々に席を立った。
後に残ったのは、中澤さん、安倍さん、飯田さん、圭ちゃんの四人だけだったと思う。
お酒を見つけたから飲もう、ということらしかった。
でもきっとそれは口実で、何かしらの話し合いが為されるのだろう。
あのまま気まずい雰囲気の中には居たくなかったこともあって、
私は逃げるようにして部屋へ駆け込んだ。
ドアを閉めて、ひとまず深呼吸をしてみる。
(なんだか、疲れちゃったなぁ……)
コンサートの声援、中澤さんの先程の台詞、小川のニュース。
様々な声が、次々に頭の中に浮かんでは響いて離れない。
ふと顔を上げると、窓から見える景色に、闇が徐々に濃さを増していた。
いつもなら、夕食でも食べている時間だろうか。
スープ半分がやっとで、とても食事がしたいという気分ではなかった。
今日はもう、このまま寝てしまった方がいいのかもしれない。
明日になれば、少なくともこの閉塞感からは抜け出せるんだから。
私は根拠のない憶測で自分を慰め、パチリと頬を軽く叩いた。
「よし、そうと決まればさっさとシャワーでも浴びますか」
服を脱いで、裸になって。
ユニットバスのカーテンを閉めて、蛇口を捻った。
やがて、温かいシャワーがざあっと体に降り注ぐ。
頭よりも少し高い所にあるシャワーを、私は暫くそのままにして置いた。
(流れていってしまえばいいのに。嫌なこと全部、ぜんぶ……)
そんなことを考えながら、私は頭と体を洗う作業を黙々と進めた。
最後に再度、清めるように真水で体を流してバスタイムは終了。
後ろを向いて、棚に置かれたバスタオルを取った。
備え付けのそのバスタオルは、新品なのか、やけにビシッと固い。
渋々、それで体の水分を取ってしまうと、私はすぐにバスルームを出て元の服に着替えた。
「少しはすっきりした、かな……」
ベッド脇の椅子に腰掛け、鏡越しの自分に呟いてみる。
見ると、肩に掛けたタオルに、髪を伝って水滴がぽたぽた落ちていた。
(何だ、全然拭けてないじゃんか)
もう一度丁寧にタオルで拭いていると、トントンと控えめなノックの音。
内鍵も閉めていない、ドアは開いているはずだ。
確認して、私は声を上げる。
「どうぞー、入っちゃっていいよ」
「よっすぃー、今いいかな」
そう言って、ドアから顔を覗かせたのは、梨華ちゃんだった。
「いいけど、どうしたの?」
「うん、ちょっとメイク落とし貸してもらおっかなって」
「持ってなかったっけ?自分の」
「本当なら今日もあのホテルに泊まるはずだったんだよね。だからてっきり」
忘れてきちゃったんだ、と付け加える梨華ちゃんは妙に早口だ。
どこか、様子がおかしい。
「梨華ちゃん?」
目を合わせようともせず、梨華ちゃんはこちらへやってくる。
私は気付かない振りをして、鏡に向かい、ただ髪を拭いた。
「あ、これ?借りるね」
目の前の台にあるポーチを見つけると、梨華ちゃんはポーチに手を伸ばした。
私の頭の上で、目的の品物をごそごそと探り始める。
「ふうん、よっすぃーってオイル派なんだ。私はクレンジングミルク派なんだけど」
ボトルだけ取り出して、すぐにポーチを元に戻す。
その声が、どこか震えている。
どうも意図が掴めない歯痒い会話に、私はいい加減痺れを切らしてしまった。
「梨華ちゃんってば!」
大声を出して、ボトルを握ったままの梨華ちゃんの腕を掴む。
立ち上がり、その表情を見ると、口をへの字に結んで、涙を堪えているのが分かった。
更新━━━キター\(・∀・)/━━━ みたいな。
「……ごめん」
どちらともなく、互いに同じ言葉がついて出る。
慌てて私は梨華ちゃんをベッドに座らせ、自分もその横に座った。
「どうしたの?梨華ちゃん」
「うん。ごめんね。なんか辛くって、小川のことを考えると……」
梨華ちゃんの目から、涙が一粒だけ零れ落ちた。
そう言えば梨華ちゃんは小川の教育係だったっけ……。
先輩気取りで教える梨華ちゃんを、圭ちゃんと一緒にからかった覚えがある。
(人一倍、辛かったよね、梨華ちゃん……)
自分のことに精一杯で、梨華ちゃんのことを思いやれなかった。
悔しいけれど、私はその程度の度量しか持ち合わせていない。
ごめんね、本当にごめん。
心の中でごめんを繰り返していると、梨華ちゃんが頬の涙を拭って話を続けた。
「小川が死んだのに、皆逃げるようにこんな所にいて。内心、皆、迷惑だって思ってる」
途切れ途切れに、言葉を紡ぐ梨華ちゃん。
「そんなことないよ。皆だってきっと辛い。悲しいよ?」
「悲しい、も確かにあると思うけど。けど……」
梨華ちゃんの言いたいことも分からないではなかった。
小川が死んで、『モーニング娘。』はどうなっちゃうんだろう。
誰もが頭の中にそんな心配を思い描いたはずだから。
「小川ってさ」
「え?」
突如、私が切り出した言葉に、梨華ちゃんがきょとんとしてこちらを向いた。
「ほら、Mr.moonlightの踊りで私とペアだったっていうか。組んでやってたじゃんか」
「うん、そうだったね……」
「あの時のさー、顔が浮かんでくるんだ。もうこれ以上小川のこと考えたことってないなっていうくらい」
言って、笑って見せた。
新メンバーとして入ってきた小川とのダンスレッスン。
交した会話までは思い出せないが、その時はいつも二人笑っていたように思う。
角度のついた眉の割に、笑うと一変に人懐こい表情になる小川。
もっと、もっと、仲良くなれたかもしれないのに。
「私も。なんだか、懐かしいなぁ」
今度は、梨華ちゃんがゆっくりと微笑んだ。
一年も経っていないというのに、懐かしいなんて普通は変なのかもしれない。
けれど、私達には密度の濃すぎる時間が流れている。
こうやって、思い返す時間すらままなかった程に。
「一杯、頑張ってた」
「うん」
「なんか、部活の後輩って感じだったな」
「あはは。言えてるかも」
独り言のような会話を、私達は続けた。
二人で小川のことを話すことが、唯一の慰めに思えてならなかった。
「次、だったんだよね」
「え?」
「Mr.moonlight。初めてのロックコンサートが終わったらそれだったでしょ?」
「そう、だったね……」
そんなこと忘れてた、と梨華ちゃん。
確かに、私もついさっきまでコンサートどころじゃなかった。
Mr.moonlight。
すうっと息を吸い込んで、頭の中のBGMに合わせて声を出してみる。
「おお、心が痛むというのかい?」
大袈裟な口調に、差し出された手。
それらに照れるように微笑む小川は、もういない。
梨華ちゃんは突然始まったMr.moonlightに驚きながらも、すかさず、
「う〜ん、ベイベー それは恋、恋煩いさ」
と続けて、こちらを向いた。
私のモノマネのつもりなのだろう。
精一杯、男前に作って見せた表情はどこか滑稽だった。
「梨華ちゃんが言うと、何か変」
「えー?もう、ひどいなー」
顔を見合わせて、二人で笑い声を上げる。
まるで涙を零す代わりにみたいに、私達は笑った。
声に乗せて、心の中に溜めていた黒いモノが空気中に散らばっていく。
一頻り笑い終え、訪れた沈黙はどこか暖かだった。
「今日はなんか、疲れちゃった」
「じゃあ、私、部屋に戻るね」
「うん、おやすみ」
ボトルをちゃんと忘れずに持ち、梨華ちゃんがドアへと向かう。
私はそれを黙って見守った。
「おやすみ、よっすぃー」
最後に笑顔を見せて、梨華ちゃんは帰っていった。
バタンと閉じたドアの音が、今日の終わりをそっと告げる。
(さあ、もう寝ちゃおう……)
私はベッドに体を滑り込ませ、窓を見上げた。
膨らんだカーテンに区切られた歪な四角の風景。
辺りの山間に広がる闇に、月が柔らかな明かりを溶け込ませている。
「まさにMr.moonlight、なんちゃって……」
ぼそりと呟いて、カーテンを閉めた。
枕元の電気のスイッチも切って、目を瞑る。
閉じた視界にも、やがてさっきの窓から見えた暖かい黒が広がっていく。
枕に濡れた髪の感触を感じながら、私は疲れた体をその闇に明渡した。
すごく丁寧に書かれていて好きです。
続きが待ち遠しいわ。
----------<<高橋>>----------
(……嫌だ、嫌だよ……逃げなきゃ、もっと速く走らなきゃ!)
(……どこ?ここ、どこ?真っ暗だ。誰も、いないの?)
(……一人は怖いよ。暗いの嫌だよ……やだ、いやだ……)
「やだってばぁーっ!」
朝起きての第一声。
思いのほか大きく発された声に驚いて、私はぱちりと目を開けた。
顔の上には枕が乗っかっている。
(夢? あれは、夢か……)
それにしても、一体私はどんな寝方をしたのだろうか。
枕が目隠しになっていれば、あんな夢も見るはずだ。
欠伸をしながら枕を除けて、顔に掛かる髪を払った。
カーテンから零れる光で、起きたばかりの頭でも朝だということがどうにか分かる。
(朝、いつもと同じ、朝だ……)
カーテンを開いて、ひとしきり伸びをする。
一瞬だけ、ここは昨日までのホテルだと思い、目に飛び込んだ景色に目の覚める思いがした。
やっぱり、昨日のことは本当だったんだ。
晴れ渡り澄んだ空までもが、恨めしい。
「麻琴」
誰に聞かせるでもなく、私はその名前を口に出してみた。
昨日あれだけ泣いたというのに、またじわりと目が熱くなる。
「もう、やだなぁ……起きたばっかなのに」
泣いてばかりいられない。
私はパジャマの袖で、無造作に顔を拭った。
それから顔を洗おうとバスルームに近づくと、廊下から話し声が聞こえてきた。
「おはよー」
「おはよう」
「早いじゃんか」
「そっちこそ」
誰の声かまでは分からないが、他愛もない朝の挨拶だった。
なんだ、私以外にも起きている人いるんだ。
(里沙は起きてるかな……)
具合が悪そうだった里沙。昨日のあの状態は不安だった。
(もし、寝ていたらそのままにしよう。確認だけ)
思い立って、私は隣の里沙の部屋へ行くことにした。
当たり前だが、ドアには鍵が掛かっていない。
音を立てないようにして、そっと開ける。
「里沙?」
電気の点いていない部屋に、カーテンの隙間から一筋の光が差し込んでいる。
私はどんどん奥へと進んだ。
部屋の構造はほとんど同じ、奥のベッドへと向かう。
やがて、逆光で見えなかった黒い影のようなものが見えてきた
あれは、なんだろう。
ゆっくり目を細めると、それは人だった。
後ろ向きにベッドの上で膝立ちしている。
だらりと腕がぶら下がっていて、チェック柄のパジャマを着ている。
あんなパジャマを、持っていただろうか。
それに、里沙なら、もっと髪が長いはずだ。
(じゃあ、あれは、誰?)
「里沙?」
声を掛けてみるが、やはり反応はなかった。
後ろ向きのその人物を確かめるだけなのに、何故か嫌な予感がして堪らない。
近づいて、肩に手を掛けてみる。
その感触は、まるで人形みたいに硬かった。
(なにこれ……)
(触っちゃいけない。これは危ない。嫌だ。逃げたい)
頭の中でいくら拒否しても、置いた手はぴくりとも動きはしない。
次第に、私の息が荒くなってくる。
(もしかして、これって……)
最悪の事態が頭に過り、恐怖に手を勢いよく離した時だった。
反動でゆらりとこちら側へ、そのモノが倒れてきた。
朝日に照らされる格好になり、姿が私の目に飛び込んでくる。
間違いなく、それは加護ちゃんの形をしていた。
えっ!!あいぼんも?!ドキドキ・・・
連続更新お疲れさまです。かなり引きつけられます・・・
ドキドキ・・・どうなるの?
うわぁーカゴチャンがー。ところでなんで新垣の部屋に…。
がんばってください。
羊は大丈夫だと思うけど……。
( `.∀´)全
保全
続きが気になる。
期待してます。
一日イチsage
待っています。
たまには娘。の話題を…。
新メン誰入るんでしょうか。自分的にはこのままの娘。のほうが良い感じが…。
すいません。それより遅いっすよね、更新。まえは二日にいっぺん位だったのに。まー気長に待ちます。
追伸:これも雑談に入りますか?
作者サンもお忙しいのかも・・・。
でも不安になりますね。
いまいちばん期待している小説です。
マターリ待ってます。
週末かな?
保全 期待
ほげ
放棄?
>>192 1週間くらいの更新停滞はありがち。
「放棄?」とかいうと作者さんに無用のプレッシャーを与えるだけ。
軽々しく使うべきではない。
気持ちがわからんではないが、ここは静かに待ちましょう。
(加護ちゃんが、死んでる?なんで、どうして)
口に触れていた指先をふいに噛んでみた。
痛い。ぎりりとした痛みの先にも、加護ちゃんらしきモノが見える。
どこか夢から覚めていないのではないか、という一縷の望みはすぐに絶たれた。
ピクリとも動きはしない目の前の物体。
髪を下ろしてはいるが、加護ちゃんだということは一目で分かった。
まじまじと記憶の中の『加護亜依』の形を辿る。
と、瞬間、加護ちゃんと目が合った。
濁った目が、光に反射してきらりと光る。
私が映るはずもないビー玉の瞳。
その目を縁取るように、顔に髪がかかっている。
重力に耐え切れなくなったのか、髪がはらりとこぼれ落ち、加護ちゃんの口元が見えた。
薄く開いた口元から白い歯が覗く。
加護ちゃんが私を向いて、歪んだ笑みを浮かべているように見える。
血の気のない唇が、今にも動き出しそうだ。
(愛ちゃん)
「きゃあぁぁーーーっ!」
ありったけの声で私は叫んだ。
喉を傷める発声法だったが、それで構わなかった。
私の見たこと全てを切り裂いてしまいたい。
朝の夢が悲鳴で終わったように、これも全部ウソだったらいいのに。
全身の震えが止まらない。今更のように恐怖が体を駆け巡る。
それでもどうにか体をドアの方へ向け、這ってこの場から逃げようとした。
廊下からみんなの駆けつける足音が聞こえる。
「今、悲鳴が聞こえたよね?」
「向こうからだ」
「誰の声? 何なんだろう、こんな朝早く」
遠くから聞こえる小さな声。誰でもいい。早く来て欲しい。
這ったその後ろから、加護ちゃんが追いかけてくる気がして怖かった。
ドアを閉める音やら、走る音が随分遠くに感じられる。
その音を掻き消すようにして、近づいてくる音がした。
「愛ちゃん!」
あさ美だった。
そうか、ここは里沙の部屋だ。隣はあさ美だ。すぐ駆けつけるはずだ。
ドア付近にまで進んでいた私は、あさ美に夢中で縋り付く。
痛いくらいに強くあさ美の腕を掴んだ。
柔らかな暖かさに、荒い息が少しだけ落ち着く。
「里沙に何かあった、の?」
私の様子を見て、あさ美の声までもが弱々しくなった。
(違う、あれは里沙なんかじゃない。あれは、加護ちゃんなんだよ。加護ちゃん、死んでるんだよ!)
言おうと思い、口を動かすが声にならなかった。
ただパクパクと口を開閉させるだけが精一杯。
私はそれを指差して伝えることにした。
ぎゅっと唇を一文字に結んで、あさ美は向こうを見詰めた。
震える指先の方向へと、ゆっくり歩を進めていく。
そろりそろり進むあさ美の後ろ姿を、私は何かの映像のように眺めていた。
「ひっ……!」
腰を抜かし、その場にへたり込むあさ美。
やっぱり、やっぱり嘘なんかじゃないんだ。加護ちゃんは死んでるんだ。
何故か、唇だけが笑うようにかたがた動く。
「高橋!」
「どうしたの!? 何かあった?」
やって来たのは飯田さんに、保田さん。その後ろに矢口さんと市井さん、後藤さん。
私とあさ美の様子を見て、顔を見合わせている。
入り口から身を乗り出して、飯田さん、保田さんの二人が部屋へと足を踏み入れた。
飯田さんが私の前をすり抜けて、奥へと進んでいく。一歩遅れて、保田さんがその後を追った。
「新垣?」
ベッド脇のあさ美は、近づいてくる二人に見向きもしない。
私も誰を見るというわけではなく、ただこの光景を辿るだけがやっとだ。
「きゃああっ!加護!?」
「加護が、加護が、死んでるっ!!」
悲鳴を上げ、互いに抱き合う二人。
私だって、ここで加護ちゃんが死んでいるのを見つけるなんて、思ってなかった。
保田さんが叫んだ事実に、ドアの向こうの三人がはっと息を呑むのが分かる。
「いやああぁーーっ!」
この部屋以外から発せられた悲鳴。
廊下からだ。そしてこれは、辻ちゃんの声。
飯田さんも保田さんもその声にぴくりと反応し、廊下の方に顔を向ける。
けれども、走って駆けつけることはできない。
市井さんが仕方が無い、という風に去っていった。
その後に続く後藤さん。
矢口さんはそんな二人を気にするでもなく、呆然とこちらの様子を見ていた。
「なんで、なんで……?」
それだけの繰り返しながら、ひたりひたりと奥へ進んでいく。
周囲の震えるみんなに目を向けず、加護ちゃんのもとを目指す矢口さん。
ベッドを覗き込むように体を前に倒すと、当然のようにそれに手を延ばした。
「冷たい」
涙交じりに、一言。
泣き喚く人は誰一人もいないが、この部屋にいる全員が静かな悲鳴を上げている。
ゆらりとドア口に人の影。
見上げると、安倍さんがそこにいた。
「どう、なってるの?」
部屋の奥だけをじっと見詰める安倍さん。
瞬きも忘れたその瞳には涙が溜まっている。
こちらを見ていた安倍さんは、加護ちゃんが死んだことを察したのだと思う。
「向こうは……?」
矢口さんがどうにかそれだけ聞いた。
辻ちゃんの悲鳴。あれは一体なんだったのか。
この質問にも、安倍さんの様子は変わらなかった。
「加護の部屋で新垣が、死んでた。 それを、辻が見つけたみたいで……」
一言一言を確認するように、安倍さんの唇が動く。
真っ先にその台詞が示す事の重大さに気付いたあさ美が、小さな悲鳴を上げて顔を手で覆った。
200 :
名無し:02/12/01 00:44 ID:/t0RtYD1
連続更新お疲れさまです&ありがとうです。
昨晩青い顔をしていた新垣ちゃんは犯人を示す何かに気づいたとか?
作者さん乙です。
がんがってください。
すいません。「放棄?」なんて失礼なこと言って。これからこうゆう事の無いようにします。
ホゼム
ふと思ったんですけどこの小説のタイトルってなんて言うんですか?
終止符オーディション
ごめんなすいません。
ぼぜーん
保全!!
一日イチsage?NO?
210 :
伊園和男:
ホセ=メンドゥーサ