知っていることだけでも、話すべきか。
私が迷っていると、加護ちゃんがドアを方を見てぽつりと呟いた。
「誰か、来る」
「え?」
皆で加護ちゃんに習って、ドアに注目する。
程なくして、がちゃりという音とともにドアが開いた。
やってきたのは後藤さんだった。
後藤さんはこちらを一瞥すると、疲れたように息を吐いた。
いつも通りクールな表情だったが、明らかに顔色が悪い。
続くようにして矢口さんと保田さんが、その後に飯田さんと辻ちゃんが入ってくる。
その全員が、何かに怯えているように見えた。
特に、矢口さんの様子は異常だった。
こちらを見ようともせず、ただひたすらに涙を流し続けている。
怖いくらいの無表情で、声も上げずに。
その有様を見た『電車の二人』組の面々に、緊張が走った。
(事態は、自分の思っているよりもずっと深刻なのかもしれない)
誰もがそう感じたのだろう。
皆一様に俯いて、口を閉じた。
誰かが深呼吸する音だけがこの部屋に響く。
何分、そうして沈黙を共有していただろうか。
埒があかないというように、安倍さんが話を切り出した。
「圭織、何があったの? コンサート、中止になるの?」
「……小川が」
飯田さんは小さな声でそれだけ言うと、その先の言葉を飲み込んだ。
そこまでで愛ちゃんには十分だった。
手で口元を覆い、『嘘でしょ?』と確認するかのように恐々とこちらを見た。
きっと麻琴ちゃん一人だけ楽屋に来ない時点で、愛ちゃんは薄々気付いていたのだと思う。
ずっと私に『ねえ、麻琴はどうしたの?』と無言で訴えていたから。
その恐れに満ちた視線とは対照的に、ぼんやりとどこか一点を見詰める飯田さん。
安倍さんがそれじゃあ分からないと言いたげに、声を荒げて再度詰問した。
「小川? 小川に何かあったの……?」
「……」
「圭織! 答えて!」
「小川は。 ……小川は」
「死んだ」
矢口さんが、まるで何かの記号みたいにさらりと続きを告げた。
『シンダ』という音が、どんな意味を持つのか。
私は、すぐには分からなかった。