----------<<新垣>>----------
(やっぱり何かが起きたんだ。何か、とても嫌なことが……)
唯一分かったことは、それだけだった。
肩を震わせ、上ずった声で泣きじゃくるあさ美ちゃん。
こんな風に泣くあさ美ちゃんは見たことがない。
私はその体を抱きとめるだけが精一杯だ。
(一体、何が……?)
つい、先程のことだったと思う。
「あれぇ、あさ美ちゃんがいない」
電車組のメンバーが楽屋で着替えを始めると、愛ちゃんがそう言いだした。
それを受け、安倍さんが呼びに行ってきてと私に頼む。
次の準備もあるから、私は急いでステージの方へと向かった。
(もう、どこにいるんだろう……。 あっ!)
向こうで何かを必死に見詰めているあさ美ちゃんの姿を見つけた、その時だった。
ぷつり。
『初めてのロックコンサート』が鳴り止んだ。
(何か……、あったんだ!)
ふと頭に過る、元気の無い麻琴ちゃんの顔。
嫌な、予感がする。
私は一目散に、あさ美ちゃんのもとへと向かった。
そして、今。
あさ美ちゃんは、私の腕の中で泣いている。
その涙が私の衣装に滲んで、少し熱い。
しがみつくあさ美ちゃんの、ちらりと覗く耳がやけに赤くなっていた。
泣いても、泣いても、足りない。
そんな叫びが伝わってくるような気がした。
「ねえ、あさ美ちゃん……」
「紺野、新垣っ!」
男の人の声だった。
何度か、会ったことがある。事務所の割と偉い人だったと思う。
スーツ姿に似つかわしくない慌てた様子だ。
肩で息をしながら、怖い顔で私たちを睨みつける。
「楽屋に戻れ! 今すぐだっ!」