ざわめきが、蠢くように駆け抜けていく。
先程までの小川コールが一斉に鳴りを潜めた。
辻ちゃんの様子から、これは貧血でも怪我でもないと察したのだろうか。
騒ぎは一転して、混沌としたものに変わっていっている。
「どーなってるんだー!」
「いいから続けろー!!」
怒号さえ飛び交う始末だ。
辻ちゃんは罵声に怯えながらも、呼びかけを続けようとしていた。
けれど、声が出ない。
いや、もう聞こえないのだ。
騒ぎはどんどん大きくなってきてしまっている。
「のんちゃん。もう、いいから……」
飯田さんがそっとマイクを取り上げ、胸に引き寄せた。
迷子が母親に会えた時のように、夢中でしがみつく辻ちゃん。
どうしてだろう。
目に映るシーンが、どれも遥か遠くのことのように感じられる。
『どうして』、『何で』ばかりがぐるぐると頭に浮かぶのだ。
他にも、考えるべきことは沢山あるはずなのに。
手に滲む汗がへばり付いて気持ちが悪い。
こんなことは、どうでもいいはずなのに。
「あさ美ちゃん、これは何の騒ぎなの!?」
里沙だった。
異常な事態に気付き、いつのまにか私の後ろに来ていたようだ。
『電車の二人』の時と同様に、その声は頼もしかった。
唯一いつもと変わらない里沙。
その懐かしい存在に、思わずしがみついた。
「ねえ! 何があったの?」
降り掛かるその声が優しく響く。
私は泣いていた。
助けを乞うように泣き叫んだ。
ブーイングに包まれ、年下の里沙に縋って。
みっともないなんていう考えはなかった。
私はずっと泣きたかったんだ。
そう主張することしか、できなかった。