小さな手が、苦しみを浮かべた顔に触れる。
矢口さんの手だ。
恐々と二度ほど触れて、すぐさま離された手。
どんな思いで触れたのだろう。
何を、確かめたかったのだろう。
ただ、見ているだけの自分。
その感触は、分からない。
矢口さんは触れた手を、そのままゆっくりと口元へと運んだ。
その手が、小刻みに震えている。
「矢口! 小川は?」
駆け上がった保田さんが、震える小さな肩を抱き、自分の方を向かせた。
「死ん、でるっ……死んでる、よ……」
かすれるほどの声だったと思う。
けれど揺れるその口の動きで、私には何を言っているのかが分かった。
息が、できない。
矢口さんは、保田さんにしがみついて震えていた。
死という言葉が、溜め込んでいた矢口さんの涙を一気にはじけさせていた。