ステージを後にすると、会場の喧騒が幾らか和らいだ。
着替え用のスペースには、13人分の衣装がずらりと並んでいる。
曲順のため、『ザ☆ピ〜ス!』の衣装のままだった私たちと違い、
次の六人は独自の衣装が割り当てられていた。
「急いでー!」
飯田さんが声を上げる。
鏡を見て、髪をさっと直し後藤さんがステージへ向かった。
辻ちゃんの衣装の着こなしを直してあげている矢口さん。
そんな二人を、保田さんが引っ張るように連れて行く。
ええと、これで五人。あと一人は麻琴だ。
麻琴はドリンクボトルをしまい、口を拭っていた。
ステージから零れるわずかな光に照らされた横顔。
水気を帯びた口元が、艶やかに光る。
じいっと見詰めていたせいか、目が合ってしまう。
「あさ美、見惚れないでよ」
麻琴は頬を緩め、笑ってくれた。
出番はもうすぐ。
マイクを握りしめ、出て行く麻琴に笑い返して「頑張って」と言った。
それが、私たちの交わした最後の会話だった。
六人がそれぞれの立ち位置へと向い、最初のポーズを決める。
その様子を邪魔にならないよう、ステージ側から覗き込んだ。
(赤い衣装、似合ってるよ! 頑張れ、麻琴!)
心の中でエールを送る。
変な紙を見つけてから、元気のなかった麻琴。
大丈夫かどうか、今ひとつ不安だったのだ。
台詞が終わるまで見届けたら、後は私も着替えに入ろう。
控えめな灯りで、照らされる六人。
初めてのロックコンサートは、麻琴の印象的な台詞から始まる。
「いつも… 弱気なままで…今日ま、でなにやっ…て、たんだ、ろう…」
皆よりも高いステージへと歩を進めていく。
一歩、一歩。
(麻琴……?)
段々と照明が強くなる。
麻琴は何故か、いつも以上に顔を伏せていた。
なんだか、様子がおかしい。
途切れ途切れの台詞、聞き取れないような篭った声。
それでも麻琴は、遅れずに声を出そうとしていた。
「ふ、つーにっ…あっ…!う、ぅぅぅ…」
「小川?」
飯田さんの声が入った。他の五人も、視線を送る。
歌が始まるまでは動かないはずの五人。
麻琴の様子は、明らかに異常だった。
「うぐっあああっ……!」
うめきにも似た奇怪な音。
少女とは思えないほどの、つぶれた醜い声。
麻琴は、喉を押えながらその場に倒れ込んだ。
手元からマイクが落ち、ゴトリという音が会場中に響き渡る。
『初めてのロックコンサート』は、流れたままだ。
「小川! どうしたの!?」
矢口さんが、真っ先に麻琴のもとへと駆け寄った。
「どうしたー、小川ー!」
「まこっちゃーん!」
「まことぉーーっ!」
ざわついた会場では麻琴の代わりに、客がそのメロディに乗せて声を上げている。
私は動けなかった。
あるはずの足が、前に進まない。
様々な光が揺れるその光景を、目だけが必死に確かめていた。
続きが楽しみですん。かなり期待しとりますん。
64 :
名無し募集中。。。 :02/10/19 21:16 ID:x5uZ1AjG
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∬ii´◇`∬ ・・・ageてしまってゴメンナサイ
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「静かに! 静かにしてくださーいっ!」
叫んだのは後藤さんだった。よく通る明るい声が、震えていた。
それでも騒ぎは一向に収まらない。
「音、止めて!!」
保田さんが声を張り、大きく腕を振った。
程なくしてようやく止まる、『初めてのロックコンサート』。
会場を埋め尽くしていた音楽が消え、ざわつきが一層際立つ。
誰のMCの時よりも、ただひたすらに叫ばれる麻琴の名前。
(これは、麻琴の、コンサート……?)
一瞬、馬鹿なことを考えた。
そうだったら、どんなにいいだろう。
そうだったなら、この歓声に包まれた麻琴が動かないはずなんてないのに。
近づいてくる矢口さんに、立ち上がって平気ですっていうはずなのに。
「小川、大丈夫っ?」
マイクを通さない矢口さんの声が、何故か私にも聞こえた。
倒れた麻琴を引き剥がすようにして、抱き込む矢口さん。
麻琴は、歪んだ表情のまま固まっていた。
(麻琴……!)