娘の時代は終わった・・

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58 ◆PNXYnQrG2o
コンサートは極めて順調に進む。
歌、踊り、MC。
行うべきパフォーマンスは全て頭に入っている。
皆、手馴れたものだ。
順調じゃないのは、私の声くらいかもしれない。
歌唱力赤点の私にも、いくらかのソロパートはある。
例えば今やっているこの曲。『電車の二人』。

「♪パッと咲いてー 散ってもいいわー 叶うならー…」

『あ』の音で暫く延ばさなければいけないのに声が、出ない。
声量が足りないのは、自覚している。
この数秒間は私にとって一つの鬼門だった。
どうにかして絞り出す声。
その音だけに、会場が耳を欹てる。
責め立てられているような長い時間。

「♪優しい時間をー あなたはー 持ってるー」

待ち詫びた里沙の声が耳に入る。
落ち着いたその歌声が、頼もしい。
残るのは一つのソロパート。音から外れないよう、体を動かす。
59 ◆PNXYnQrG2o :02/10/18 23:55 ID:hYOgV8zZ

「♪ああずっと、ああずっと、このままでー」
「♪ああずっと、ああずっと、未来までー」

音が消え、照明も落ちる。歓声が、曲の終わりを告げた。
最後のソロは、自分なりに何とかこなせた。
合格点、といったところか。
額を伝う汗を拭い、ふうっと大きく息を吐いた。
左手のマイクを持ち替え、軽く手のマッサージをしていると

「紺野? ぼーっとしない。次すぐだから」

吉澤さんに背中を押された。
周りと見渡すと残っていたのは、加護ちゃんと私たちだけだった。
そうだ、これで終わったわけじゃない。
ぼんやりしてる暇はないんだった。
次は「初めてのロックコンサート」。
ステージ上のメンバーが入れ替わる。
私たち「電車組」の七人は、そのまた次の準備をしなくては。