娘の時代は終わった・・

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165 ◆PNXYnQrG2o
----------<<吉澤>>----------

「すみません、あの、もう休んでいいですか?」

残ったスープも冷めかけた頃、そう言って新垣が手を挙げた。
声こそはっきりしているものの、顔色が相当に悪い。
すぐに紺野と圭ちゃんに付き添われ、部屋へと戻されていった。

「皆も疲れてるやろ。 早めに休んだ方がええんちゃう?」

三人を目で追っていた皆を見て、中澤さんが促す。
その言葉を待ち侘びていたように、私達は次々に席を立った。
後に残ったのは、中澤さん、安倍さん、飯田さん、圭ちゃんの四人だけだったと思う。
お酒を見つけたから飲もう、ということらしかった。
でもきっとそれは口実で、何かしらの話し合いが為されるのだろう。
あのまま気まずい雰囲気の中には居たくなかったこともあって、
私は逃げるようにして部屋へ駆け込んだ。
ドアを閉めて、ひとまず深呼吸をしてみる。

(なんだか、疲れちゃったなぁ……)

コンサートの声援、中澤さんの先程の台詞、小川のニュース。
様々な声が、次々に頭の中に浮かんでは響いて離れない。
ふと顔を上げると、窓から見える景色に、闇が徐々に濃さを増していた。
いつもなら、夕食でも食べている時間だろうか。
スープ半分がやっとで、とても食事がしたいという気分ではなかった。
今日はもう、このまま寝てしまった方がいいのかもしれない。
明日になれば、少なくともこの閉塞感からは抜け出せるんだから。
私は根拠のない憶測で自分を慰め、パチリと頬を軽く叩いた。

「よし、そうと決まればさっさとシャワーでも浴びますか」
166 ◆PNXYnQrG2o :02/11/19 23:59 ID:GyESmhTC

服を脱いで、裸になって。
ユニットバスのカーテンを閉めて、蛇口を捻った。
やがて、温かいシャワーがざあっと体に降り注ぐ。
頭よりも少し高い所にあるシャワーを、私は暫くそのままにして置いた。

(流れていってしまえばいいのに。嫌なこと全部、ぜんぶ……)

そんなことを考えながら、私は頭と体を洗う作業を黙々と進めた。
最後に再度、清めるように真水で体を流してバスタイムは終了。
後ろを向いて、棚に置かれたバスタオルを取った。
備え付けのそのバスタオルは、新品なのか、やけにビシッと固い。
渋々、それで体の水分を取ってしまうと、私はすぐにバスルームを出て元の服に着替えた。

「少しはすっきりした、かな……」

ベッド脇の椅子に腰掛け、鏡越しの自分に呟いてみる。
見ると、肩に掛けたタオルに、髪を伝って水滴がぽたぽた落ちていた。

(何だ、全然拭けてないじゃんか)

もう一度丁寧にタオルで拭いていると、トントンと控えめなノックの音。
内鍵も閉めていない、ドアは開いているはずだ。
確認して、私は声を上げる。

「どうぞー、入っちゃっていいよ」
「よっすぃー、今いいかな」

そう言って、ドアから顔を覗かせたのは、梨華ちゃんだった。
167 ◆PNXYnQrG2o :02/11/20 00:04 ID:kjtarc24

「いいけど、どうしたの?」
「うん、ちょっとメイク落とし貸してもらおっかなって」
「持ってなかったっけ?自分の」
「本当なら今日もあのホテルに泊まるはずだったんだよね。だからてっきり」

忘れてきちゃったんだ、と付け加える梨華ちゃんは妙に早口だ。
どこか、様子がおかしい。

「梨華ちゃん?」

目を合わせようともせず、梨華ちゃんはこちらへやってくる。
私は気付かない振りをして、鏡に向かい、ただ髪を拭いた。

「あ、これ?借りるね」

目の前の台にあるポーチを見つけると、梨華ちゃんはポーチに手を伸ばした。
私の頭の上で、目的の品物をごそごそと探り始める。

「ふうん、よっすぃーってオイル派なんだ。私はクレンジングミルク派なんだけど」

ボトルだけ取り出して、すぐにポーチを元に戻す。
その声が、どこか震えている。
どうも意図が掴めない歯痒い会話に、私はいい加減痺れを切らしてしまった。

「梨華ちゃんってば!」

大声を出して、ボトルを握ったままの梨華ちゃんの腕を掴む。
立ち上がり、その表情を見ると、口をへの字に結んで、涙を堪えているのが分かった。