娘の時代は終わった・・

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136 ◆PNXYnQrG2o

「もう、やめない?」

飯田さんの一言に、皆がすっと顔を上げた。
奇妙に揃ったその動きに少し驚いたのか、大きな目が更に見開かれる。
(早く、続きを話して)
複数の目線に続きを促され、飯田さんは手を組み直し、話を続けた。

「ねえ、だって、こんなことしたって何になるの?私、もう嫌だよ。こんなの、嫌だ」

眉を顰め、駄々をこねるような口振。
吐き出すようにそれだけ言うと、飯田さんは俯いてしまった。
震える肩に、泣くのを必死で堪えている様が窺える。

「せやな。こんなん、しててもしゃーないな……」

中澤さんが慰めるように言って、そっと紙切れを裏返しにした。
黒い靄の発信地だった紙切れが、白い背中を曝け出し、テーブルの色に溶けていく。

「確かに、今のままじゃ、あやふやな所が多すぎて何とも言えないしね」

続けたのは市井さん。
落ち着き払った物言いに思わずほっとしてしまう。
137 ◆PNXYnQrG2o :02/11/12 23:51 ID:LSSvnX42

(これで、誰も疑わなくて済むんだ……)

皆もそう思ったのだろうか、口々にもう終わりにしようと言い出した。

「やっぱりこういうの、警察に任せた方がいいですよね」
「うん、そうだよ。それにまだ殺されたって決まったわけじゃないし」
「この紙が関係してるかどうかっていうのも怪しいよ」
「どうせ、明日の夜には迎え来るんだしね」

ぎこちない笑みを交しながら、終わりにする口実を並び立てていると、

「決まりやな。じゃあ、もうこれでお終いってことで」

中澤さんが結論付けて、パンっと一回手を打った。
場を変える力強いその響きが、どこか懐かしい。

「これから、どうしよっか」

一息吐いて切り出した保田さんに、すかさず安倍さんが返した。

「んー。とりあえず、コレ着替えたいんだけど」
「うわ、あんたら衣装のまんまやん」
138 ◆PNXYnQrG2o :02/11/12 23:53 ID:LSSvnX42

中澤さんはがたっと椅子を引いて、今更のように安倍さんの衣装を上下に眺めた。
コントみたいな大袈裟な仕草に、やっと皆の顔が綻ぶ。

「ずっとだってば、裕ちゃん」
「気付かんかったわー。近くで見るとすっごいな」

安倍さんはあの時すぐに着替えを済ませてしまったせいで、一人だけ違う衣装を着ている。
Mr.moonlightのフリフリの衣装。
自分の衣装も良く見てみると、すごく場違いに思える。
黄色いサテン地に、下は太いストライプ。ド派手もいいところだ。
早く着替えてしまいたいという気持ちは私も同じだった。

「あれ?圭織と圭ちゃんはいつのまに着替えたの?」
「さっき上に行ったとき、ついでにね」

言われて二人を見ると、確かに普通の格好をしている。
飯田さんは白いカットソーに黒のスリムジーンズ。
同じくジーンズに緑のオフタートルニットの保田さん。
着替えたことにも気付かなかったが、二人が衣装を着ていたという印象も薄かった。
私には周りを見る余裕すらなかったんだ。
改めてそう気付かされると、自分の着ている衣装が何だか馬鹿らしく思えてくる。
詰るように衣装の端を引っ張ると、それを見ていた保田さんが笑って助け舟を出した。

「すぐ着替えてきなよ。部屋も決めといた方いいし」
「あ、寝てる三人が居るから静かにね」
「うん、わかった。そうするよ」

安倍さんが答えて、各々が荷物を持ち、二階へと移動した。