娘の時代は終わった・・

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101 ◆PNXYnQrG2o

中澤さんと市井さん。
どうして、この二人がここに居るんだろう。
うろたえている私たちを尻目に、中澤さんはメンバーを誘導し次々と席に座らせていく。
私はあさ美ちゃんと隣になった。
泣き止まないあさ美ちゃんを窓際に座らせ、私も席に着く。
反対側の席には愛ちゃんと加護ちゃん。全員がペアになって座っているようだ。
市井さんが一番前の席に座り、中澤さんもその隣に腰を下ろした。
さて出発と中澤さんがドアを閉めようとしたその時、

「待ってくれ!」

つんくさんが息を弾ませてやってきた。
落ち着かない様子でワゴン内の私達を一通り見渡すと、話を始める。

「これから、お前達には俺の別荘に向かってもらう」
「別荘、ですか」
「中澤、鍵はお前に預ける。好きに使っていい。食料も何かしらあるはずや」
「はい」
「そっちにもいつマスコミが嗅ぎ付けて行くか分からん。いいか。外には出るな」
「はい」
「明日の夜に一度そちらに数人で向かう。それまでは待機だ」
「明日の夜まで、ですね。分かりました」

中澤さんだけがハキハキと受け答えする、奇妙な会話。
それでも、今の私達には中澤さんの存在がありがたかった。
つんくさんはこのやり取りに満足したのか、ドアを閉め運転手に出発を促した。
そろそろと、私達十四人を乗せた車が動き出す。
102 ◆PNXYnQrG2o :02/11/05 02:08 ID:FLxXBSR6

閉め切った車の中は、ステージともまた違う異様な空間だった。
大型ワゴンの中にいる十四人。
運転手も素知らぬ顔で運転を続けている。
いつもの移動と似ているようで、全く違う。
衣装のままの私達。
重いため息が、無造作に体を縛り付ける。

(なんでいつもはコンサートになんか来ない人たちが一杯いたんだろう……)

車の揺れに身を任せていると、そんな疑問が頭を擡げた。
が、麻琴ちゃんの死という大きな謎の前では、別にどうでもいいことだ。
とにかくもう車に乗ってしまったんだ。あとは目的地である別荘へとただ運ばれるだけ。
私達は逃げるんだ。その避難所として充てられたのが、つんくさんの別荘。
明日の夜までそこで隠れていなくちゃいけない。
そう考えると気が滅入ってくるが、反面どこか安心もしていた。
多分、私も疲れていたんだと思う。
今は何も考えずに休んでしまおう。
隣のあさ美ちゃんも泣き疲れたのか、うとうとしていた。
しかし、その目からは未だに涙が流れて止まない。
膝の上で繋がれた手に、それがぽたぽたと落ちていた。

(これ位しかできないけど……)

私はすっと衣装の帽子を脱ぎ、手の上に被せた。
冷たい涙が帽子に吸い込まれ、帽子に包まれた二人の手は少しだけ暖かになる。
あさ美ちゃんに掛けてあげられる精一杯の『おやすみ』。
帽子に広がる染みを感じながら、私もゆっくりと目を閉じた。