UFA事務所1階のエレベーターホール。
滅多に使われる事の無い一番左端のエレベーター。
そのエレベーターが起動音を立てながら地下から昇ってくる。
やがてドアが開き、降りてきたのは顔を真っ赤に染めて泣きじゃくる高橋愛と、
怒りとも悲しみともつかない複雑な表情を浮かべた吉澤ひとみだった。
2人は無言で正面入り口へと歩いて行く。
その異様な姿を見て入り口付近にいた社員達は自ずと道をあけていった。
そして、2人の姿がガラスのウインドの向こう側に消えた後、誰からという事も無く社員達が口を開き始めた。
「どうしたんだ・・・?あの2人?」
「高橋・・・泣いてたよな?喧嘩でもしたのか?」
「最近、モー娘。おかしいよな?」「やっぱ新メンバー入るから、色々いざこざが起きてんじゃねーの?」
「それより聞いたかよ。3階の掃除やってる石田さんが言ってたんだけど、
さっきまで会議室をつんく♂さんが使ってたらしいんだ。
そんで、石田さんが会議室前を通りかかったら何か言い争うような声とスゲー音がしてたんだって。」
「マジかよ・・・荒れてんな〜。」「絶対、今の吉澤と高橋に関係してるな。」
「それにあの関係者以外使用禁止の左端のエレベーター。あれ怪しいと思わないか?」
「ああ。絶対に裏があるな。この事務所もつんく♂さんもモー娘。も」
・・・・・・。関係者以外使用禁止・・・か。<なるほどな。>
「ん?今誰か何か言ったか?」「俺じゃないぜ。」「俺は何も言ってねーぞ。」
「おかしいな?確かに聞こえたんだが・・・。ま、いいか。そろそろ持ち場に戻ろうぜ。山崎に首切られちまうよ。」
「ああ。そうするか。」「ったく・・・仕事かったりーな。」
社員達は各自の仕事場に戻るためにエレベーターホールへと向かっていった。
危ない危ない・・・。思わず声出しちまった・・。
そんな事よりさっさと奴らを追跡しないとな。
すると、自動ドアが何の前触れも無くいきなり作動し、その向こう側のガラスのドアが独りでに開いた。
誰もその瞬間を目撃した者はいなかったが。
「それじゃ、吉澤さん。私はここで・・・」
「うん・・。じゃあね。」
高橋は手近な所でタクシーを止めるとそれに乗り込んでいった。
それを見送ると吉澤はまた道を歩き始める。
おいおい。16の分際でタクシーでお帰りかよ。いいご身分だな。
そんな事はどうでもいいか。とにかく残った方・・・吉澤か。
奴を追跡しないと。もし逃したらあいつを笑えなくなるな。
なんせ楽勝って言っちまったからな。
・・・・。所で、吉澤と俺との距離は100メートルくらいか。
もう少し接近しねーと・・・。どうせ俺の姿は誰にも見えない。
この距離だと見失う可能性がある。今日は平日だってのに人通りが多いからな。
その時、突然吉澤が走り出した。
<何ッ!!>見ると先にある大通りの信号が点滅している。
あの野郎!あの通りを渡る気か!?んなもん次の信号を待てばいいじゃねーかよ!
チッ!まずい!信号で足止めを喰うのはまずすぎる!!
何とか追いつかねーと!!タッタッタッタッ・・・
この足音に道往く人達が振り返る。だが、先程から喋っているこの男を見つける事は出来ない。
誰もこの男の姿を確認する事は出来ないのだ。それがこの男の能力・・・そう。「透明になる能力」だ。
糞ッ!間に合え!間に合えよ!!
ん!?おいそこのクズカップル!!そこをどきやがれ!!通行の邪魔だ!!歩道で幅とってんじゃねーぞ!!
おい!!どけ!!どけってんだろうがこのブスがあああッ!!
男はブスと正面激突した。ドンッ!!<ぐあッ!!>「きゃあっ!!」
「おい!!どうしたんだよ!?真紀子!?いきなり倒れて!?」ブスの彼氏が道に転がったブスを抱き起こす。
「イタイよぉ〜今、誰かにぶつかられた・・・。」
「誰かって・・・お前、一人でいきなり吹っ飛んだんだぜ。」
「えっ!?そんなはず無いよ!!だって今・・・ブハッ!!」
いきなりブスの鼻から大量の出血が。
男がブスの顔面を蹴り飛ばしたのだ。
「えっ・・・!?一体どうなってんだよ!?真紀子!!大丈夫か!真紀子!!」
男の姿を見ることの出来ない彼氏はただただパニくるだけだった。
<この糞カップルがァ〜〜。テメーらのせいで吉澤を見失っちまったじゃねーか!!>
「え!?誰!?今、誰か何か言った!?」
<豚みてーな 女、連れやがって!!家畜には首輪でも着けとけこのゴミがッ!!>
「えっ!?誰・・・ゴバハッ!!」
今度は彼氏の歯が血とともに辺りに飛び散った。
キャアアアア!!周りの通行人から悲鳴が漏れる。
男が彼氏の口の中に蹴りを入れたのだ。
「うげッ!!ゴホゴホッ!!ううう・・・何なんだよ・・・一体・・・」
<糞・・・2万もする靴がこのゴミどもの血で汚れちまった・・・それに吉澤も見失っちまうし・・・
今日は本当にムカツク日だぜ・・・この俺に失敗は許されねーんだ・・・。
「情報伝達班」の一員として・・・そして俺自身のプライドが失敗を許さねーー!!追跡を再開をする!!>
男は再び走り始めた。今度は誰にもぶつからないように・・・。
スタンド名<メタルボックス> 本体:「情報伝達班」というグループの一員
能力:本体を透明にする。
バラメーターは今の所、不明。