609 :
レクイエム ◆8FREQU/2yA :
場所は変わってUFAの地下・・・
巨大モニターの前で吉澤・高橋・安倍の3人がエスパーに説明を受けていた。
「もしも、つんく♂さんが<ヒトラーの日記>を回収して無かったら、今頃地球はデーモンに征服されていたんです。
つまり、我々もとっくに死んでいた事になります。つんく♂さんが日記がデーモン達の手に渡る直前に回収し、隠したから・・・」
3人ともまだ上手く理解できてないようだ。無理も無い。あまりにも現実離れし過ぎている。
「あなた達は特別な才能を持っているの。言うなれば能力を持った人間達が集まったグループ。それがモー娘。でもあるの。」
「そんなの嘘だ!!」高橋が異論を唱えた。
確かに人気アイドルグループのメンバーである所からして、自分は普通の人間じゃない事は分かってる。
だが、それはそんな能力だとかいう夢物語でのお話では無く、現実面での話だ。
こんな地球を救うだとか大それた話とは全く無縁!そんなことが出来る訳無いじゃない!!
「あなたにはスタンドという能力があるの。これは普通の人は持てない能力なの。」
すかさず高橋が叫ぶ!「私は普通の人間です!!それにそんな能力なんて・・・!!」
「あなたには能力がある。ホラ・・・横を見てみなさい。あなたの怒りの感情によってスタンドが呼び起こされてるわ。」
・・・・。高橋はそっ、視線を横に移した。
そこには顔に派手なペイントをしたピエロが立っている。
「ね?分かるでしょう?それがあなたのスタンドなのよ。」
自分にそんな能力があるなんて絶対認めたくない。だが、実際にこの目に見えてしまっている。
見えてしまっているものは否定できない・・・。でも、どうしても認めたく無かった。
自分がそんなに大きな使命を背負ってる事を。
ついに高橋の感情が爆発した。
「そんなの・・・私は嫌だ・・・。こんな能力・・・私、欲しくなかった!!
いらない能力を勝手に目覚めさせて闘えなんて・・・!!
そんなの酷すぎます!!私、こんな事のためにモーニング娘。に入ったんじゃない!!
私はモーニング娘。が・・・歌が好きだったからモーニング娘。に入ろうと思ったんです!!」
ハァッ・・ハアッ・・・。激しく息を切らせながら叫ぶ高橋。
その目からは大粒の涙が零れ落ちていた。
「私は・・・私は・・・闘うなんて・・・絶対に嫌です!!!」
高橋の叫び・・・意見・・・思いは確かに的を得ていた。望んでもいないのに勝手にスタンド能力を発現させられる。
何故、発現させられたか?それは敵に襲われる可能性があるから。敵スタンドから身を守るため。
何で敵が襲ってくるか?それはつんく♂さんが「ヒトラーの日記」とかいうのを隠したから。
つんく♂さんの行いが悪いとは思わないけど・・・それによって生じる問題はつんく♂さん自身で解決するべきだ。
何で私まで・・・メンバーの皆まで巻き込むの?
自分でその日記を奪ったんならそれを狙ってくる敵、全てをつんく♂さんが倒せばいいんだ。
つんく♂さんの近くにいる私達を敵が狙ってくるも何となく分かる。きっと、人質か何かには使えるだろうから。
でも、そんな敵もつんく♂さんが全部倒せばいいんだ。
地球を守る?そんな事は少なくとも自分が関与すべきことじゃない。
軍隊とかがやればいいんだ。アメリカとかロシアとかフランスとか中国とかドイツとかがやればいいんだ。
日本という核も持たない小さな島国の・・・それもただの一国民に過ぎない私が関係すべきことじゃない!!
少し、脱線ぎみの意見だが確かにその通りだった。
いきなり、こんな事実を聞かされ、それを前向きに受け取れる人間はそうはいないだろう。
・・・・・・・・・・・・・。しばしの間、辺りを沈黙が包む。
その沈黙の時間を終わらせたのはエスパーでもつんく♂でも無く、飯田だった。
「高橋。」
高橋は振り返ること無く答えた。「・・・何ですか?」
「怖いのは分かる・・・。信じられないのも分かる。でも聞いて・・。このまま何もしなかったら世界は滅んでしまうの。
敵は何人いるかはわからない。でも、カオリと石川、それにつんく♂さんだけだったら絶対に勝てない。
日記を守りきれないの。だから・・・今は高橋の・・・高橋だけじゃない。
よっすい〜やなっちの力を借りたいの。ごっちんや矢口だってきっと同じ気持のはずよ・・・。」
「・・・矢口さんは・・・。」
吉澤が静かな声で喋りだした。
「矢口さんは・・・あの時は事故だって聞いた。でもあれは敵にやられてたんですね。
矢口さんも同じ気持ちだなんて。何でそんな事が言えるんですか・・?
いきなり闘いに巻き込まれて、大怪我させられて・・・。
もし、矢口さんの怪我が治って、もう一度闘いの舞台に立ってくれ。って言われたら絶対に嫌がると思います。」
「よっすい〜・・・。」
「私も・・・高橋と同じ気持です。」
そういうと吉澤は踵を返し、エレベーターの方へ歩いていった。それに高橋も続く。
そして、ただ一人残った安倍も下に俯いたまま何も話さない。
エスパーもつんく♂もただ、黙ったままだった。
ガシャン。エレベーターのドアが閉まり、2人は1階へと上がっていく。
飯田の表情も一気に曇り、何も言えなくなっていた。
そして石川もこの重苦しい空気に何もすることが出来ず、ただひたすら無言を貫き通すだけだった。
最悪の空気が地下室内を包む・・・。