小説「加護の葬式」

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58 ◆u/CKDZRM
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「どう?気分」

小川、大便で失神するその頃、皮肉にも、
小便で失神した紺野は意識を取り戻した。
しばらくうなされた模様、額にはだいぶ脂汗が光っている。
安倍の平手さすがに効果てきめん、傍らで必死に看病するのは、
横面わずかに赤く腫れる後藤、
脂汗をやさしく拭き取りながら、声をかけた。

紺野はふっと気がつき、焦点の合わぬ目をこすり、
瞼を閉じ、また開き、二三度繰り返す動作、
声を出すまで時間がかかった。

「…あたし、夢見てた、夢見てました…」

「どんな?」と後藤が返す間なく、とたん、
紺野はこれまで耳にしたことないような早口でまくしてた。
59 ◆u/CKDZRM :02/09/27 23:54 ID:g3y+JgUR

しばらくの暗闇、
すると突然けたたましい真っ赤な炎が人間を包む。
体中どんどん溶かされ、焦げたアブラ、
皮膚と相まってただれ垂れ落ちれば、
その先、蛆が幾千匹待ち構え、うごめく。
炎、さらに激しい音をたて、勢いを増し、
血泡がマグマのように噴出、悶え狂う姿、
熱い熱いと顔を覆う両腕が根っこからもげ落ち、
その顔を見ると、まさしく、加護亜依のそれだった。
ごろんと地面に転がった腕には無数の蛆が群がっていた。

そんな夢、と喋り終えると、紺野、後藤に抱きつき、
またワァワァと泣き出した。

●続く●
60 ◆u/CKDZRM :02/09/27 23:55 ID:g3y+JgUR
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さあ泣き出したのは紺野ばかりではない、
矢口の奇行、異様という一言だけではあまりにも言葉足らずで
お粗末かもしれない、その始終を、
隅から隅まで目の当たりにした福田石黒もまた、
やはりワァワァ泣きじゃくっていた。

「…やりなよ」

怯え震える肩を抱き合い、
ピタリと体を合わせた二人にもお構いなく、
早くあんたたちも、と急かすように注射器を差し出す矢口、
福田、その手をピシャリと払いのけ、

「近寄らないで!」

と一喝。
61 ◆u/CKDZRM :02/09/27 23:56 ID:g3y+JgUR
カラカランと鳴りながら注射器は遠くへ転がっていく。
矢口にとっては大切な神様、口を尖らせる真似し、
拾いにいこうと後ろを振り向いたその隙、
福田、素早く立ち上がると、一目散に部屋から逃げ出した。
遅れた石黒、首を返した矢口と一瞬目が合ったが、
後に続けと、大声をあげながら飛び出してくその姿まるで敗残兵。

追いかける素振りも見せず、ゆっくり腰をかがめば、
まだ僅かながら左右に揺れる注射器を睨み、
照れ笑いにも似たような表情でつぶやいた。

「また独りだね、へへ」

●続く●