11
「なんでウチら葬式に呼ばれないのよ、もう」
いち早く事務所に到着していた石黒、福田、
何がっあったのだろうと、心配そうに顔を見合わせつつも、
かように怒るのも無理はない、石黒はいらだちを隠せなかった。
福田はまぁまぁとなだめいてが、やはり同じような気持ちだったは間違いない。
感情の比率が、怒りか哀しみ、どちらに傾いてるのか、
その差だけであった。久しぶりの再会、
同じ気持ちを共有する二人は、怒り哀しみのシンパシィ、
昔話に花を咲かせて、矢口の到着を待っていた。
「なにあれ?」
と遠くを怪訝な表情を浮かべ、指差したのは福田、
黒っぽい影がこちらに向かって猛スピードでせまってくる。
「ヤバイよ、おたく?ウチら見つけてサインねだろうとしてんじゃない?
怖いから逃げたほうがよくない?」
石黒、福田の手をとり、走って逃げるが、
振りむくと、その黒い影は、より近づき、追いかけてくる。
二人、悲鳴をあげながらいっそうの全力で走るが、
恐怖映画よろしく何事かわめき散らしながら、
黒はどんどん追い上げ、えいやっと二人に飛びかかった。
石黒福田、失神寸前、腹の底からの絶叫、
それに負けず劣らず、
金切り声で叫ぶのは、もちろん矢口であった。
「おいらだよーーーーーーっっっ!!!」●続く●
ハァハァ
12
「なぁ〜んだ、やぐちぃっ〜〜」と二人、ほっと一息、
ぐたりと安心し、まじまじと矢口を眺めるも、
ぜぇぜぇと呼吸をととのえる、その口から、
いきなり、ドバーッと大量の血を吐き出した。
葬儀場から事務所までの休むことない全力疾走、
ゴール直前でも二人に逃げられ、短距離をさらなる加速、
とどめに、自らの存在証明のごとし、金切り声をあげれば、
コンサート中に倒れるその体力からいっても、
吐血は至極当然の結果ともいえた。
ドス黒い血は石黒福田両名の私服を真っ赤に染め上げ、
当の矢口も、ボロ同前の喪服は真っ赤っ赤、
口からしたたり落ちる血を手でぬぐう。
「救急車!」
と福田が携帯をかけようとしたが、
半ば意識朦朧とした矢口はフラフラとしながらも、
福田から携帯を取り上げ、制止する。
そして、少し間をあけ、
二人の目をじっと見つめ、つぶやいた。
「辻、殺るよ」
●続く●
30 :
もー:02/09/26 01:18 ID:OdAtC+ID
続きキボン
13
「辻を殺すって??」
驚きの声をあげたのは飯田であった。
ここは葬式場、
事務所前でつぶやいただけの矢口の声が、遠くここ葬場まで届くはずもなく、
飯田の驚きは後藤の告白に向けられたものなのだ。
矢口とす入れ替わっるように式場に入ってきては、
最初ポツリと一言発したきり、
今の今まで黙りこくっていた後藤は答えた。
「うん、すれ違う時言ってた、ものすごい剣幕で『辻殺す、絶対殺す』って」
「なんで早く言わないのよ!そういう大事なこと」
吉澤は少し腹を立てながらそう言った。
「だって、言える雰囲気じゃなかったし…」
後藤はボソッと下を向いて漏らす。
中澤をはじめ、市井高橋小川新垣はいなくなった辻を場内くまなく探しに出かけ、
つんく、一服してくるわ、と外へ出かけたまま。
安倍はスタスタ、ふてくされた様子の後藤の前へ立ち、
口を膨らませ、ギッと睨むなり、手を振り上げる。
安倍は後藤の頬を手のひらではたいた。
ピシャリッ。
いい音がした。
後藤は今日はじめて涙を流した。
みんな黙っていた。
「……加…護…さ…ん……」
いまだ意識のない紺野が、ビンタの音に反応したのだろうか、
寝言のように、かすかにうめいた。
●続く●
今日はここまで、です。
続きキボンの方ありがとう。
感想言ってもらえると励みになります。
34 :
もー:02/09/26 01:55 ID:OdAtC+ID
更新乙彼ー。
今までに読んだことの無いタイプの小説でかなりイイ(゚∀゚)!
これからも期待します。
乙!読んだよ。
凄い、としかいいようがないです。おもしろすぎ。
続き期待してます。
>>33 お疲れ。今まで読んできたのとレベル違うわ最高
14
矢口、右腕を石黒の肩に、左腕を福田の肩に回し、
その体躯は余計小さく見え、貧血めまい朦朧とうなされながら、
挟まれるように担がれ、中へと運び込まれる。
赤黒き血まみれの三人を見た事務員らしき女性、
ヒャッっと悲鳴をあげ全身の力が抜けたように、
その場にヘナヘナと座り込んだ。
ひとまず、矢口を脇のソファーに寝かせ、
石黒、どうしたものだろうと首を捻り、
福田、ため息をつくばかり。
「気ぃ失っちゃってるね。呼ぼっか、救急車。服も着替なきゃいけないし」
鑑に写った自分の体に気付き、福田をジロッと眺め、
矢口を確認すると、石黒はそう言うと、
「…おいらのバッグ」
今ある力を、やっとの思いで精一杯絞り出す矢口。
駆け寄った福田は「どうしたの?」と声をかけ、
石黒、矢口のバッグを見つけ、「これかな?」と
ひょいと福田に放り投げる。
福田はバッグを矢口に差し出すと、
震える手を突っ込み、ガサゴソと何かを取り出した。
「…おいらの神様」
震えがさらに勢いを増し、握力と重力は逆転、
その手の中におさめられたものは、
カランパサリと床に落ちた。
注射器と白い粉であった。
●続く●
15
あたしじゃなくても、誰でもいいくせに。
辻を探しに出かけた数名、中澤の指示で、
それぞれ手分けしてバラバラ、
小川は独り、探す様子もなく、難しい顔をして、
ぼさぼさ考えながら、廊下を歩いていた。
あるいは、いつも考えていたのかもしれない。
歌う、踊る、食う、笑う、怒る、泣く、
合格の時だってそうだ、もちろん早熟な体を男に抱かれる時だって。
さらに遡れば、この世に生まれた瞬間だって、
考えていたんだ。
きっとそうだ、と思った。
あたしじゃなくても、誰でもいいくせに。
そのフレーズだけをひたすら反芻しながら、
辻のことなど、もはや頭にはなく、
ただ、無闇に前へと歩みを進めている。
そして、右足が何かを踏みつける感触とともに、
勢いよく後ろに転び、頭を打った。
小川はおびただしい量の下痢便に足を滑らせ、脳震盪を起こし、
「あたしじゃなくても、誰でもいいくせに」
と思いながら、意識は遠ざかっていった。
●続く●
16
自ら進んで、ソファーから転げ落ちると、
そのまま横になる矢口、
まぶたを閉じ、床に頬をつけ、呟く。
「…冷たくていい気持ち、でももっと冷たいの…」
吐血を拭った手でつかんだせいか、血のこびりついている注射器を拾うと、
いきなりボロボロの喪服の裾を腰までまくりはじめた。
生理のためだろう、パンツにも血がついている。
両足を高く上げ、腰をくねらせ、
するするっとパンツ脱ぎ捨てると、一息つく。
福田石黒、口は半開き、あ然呆然と見たまま、動かない。
さぁとばかりに、矢口、両足をさらに高くし、広げる。
傍観者二人の角度からはその秘部は見えないものの、
先刻、石黒の姿を写した鏡は、それを鮮明にあらわにしていた。
気付いた福田、首を横にし、倣って石黒も、同じ方向を向く。
どこにそのような力が残っていたのか、
ギュウと注射器を握り締めると、意を決したように、
一気に、そして、男性的な力強さを帯びながら、
液体のあふれ出そうな透明な棒を、ズブリと、股間に突き刺した。
すると今度は女性的な、否、女性以上に女性的な、吐息を漏らす。
注射器には、月経血が逆流している。
溶液と混ざり、何とも言われぬ、美しい桃色が、
鮮やかに映えていた。
「…おいらの脳みそ、きっとオマンコにあるんだよ」
下腹部から背筋へと心地よい寒気が走り、
ブルッと体を震わせ微笑する矢口は、鏡越しの二人を見つめ、
そう語りかけた。
●続く●