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小川を最初に発見したのは、高橋だった。
何か異臭がすると、臭いを辿って来てみれば、
人間が溢れ返った半液体状の糞に埋もれている。
辻かと思い、鼻をつまみながら近寄り、顔を確認すれば、
白目むき泡吹く仰向けの小川。
さらに強く鼻孔を指で締め上げるが効果なく、
刺激臭が鼻の奥を突き、肺まで届くような気持ち悪さ。
早く助けを呼ばねばと声を張り上げようとしたが、胸つまり出ない。
代わりに出たのはゲロだった。
勢いよく高橋の口腔から飛び出たそれは当然小川に襲いかかり、
例えれば、敷き布団が下痢、掛け布団が吐瀉物という有り様。
あたしのせい?
ここでみんなを呼んだら、
全部あたしのせいになっちゃうのかな?
小川の心配もはやカケラもなく、自分の心配に及ぶ高橋、
ここで中澤らを呼ぶのはあまりに都合が悪いと判断。
「…見なかったことにしよう、なかったことにしよう」
高橋、ポツリと独り言。
片腕で口を拭い、もう片腕でムカつく胃を押さえ、
その場から足早に立ち去るその後ろ姿、
ちょうど便所から出てきた辻の目に写っていた。
●続く●