921 :
辻っ子のお豆さん:
うちに残された時間は一体どれくらいやろ?逃げたことを知られたら必ず追ってくる。
この日本で奴等らから見つかるずにいる場所なんてあらへん。
明日の朝、職場に来てへんて知られたら、必ずうちを捜索するはずや。
もって二日…三日くらいやろか。その間にののに会わなあかん。
【夜行列車に揺られ、翌日の正午、うちは朝日奈町に降り立った。ののいる町や】
【景色には目もくれず夕凪女子校ゆう所に向かった。】
【流石におおっぴらに侵入することもできず、うちは門の外から様子を伺っとった】
【そこで出遭ってしまったんや】
「なにしてるんですかぁ〜?」
【体操服姿の女子生徒。しかも相当可愛い。まぁ元のうちには劣るねんけど】
【そんな外見以上にうちを驚かせたのは、そこに秘められた内面】
なんやこいつは!何でこない悪魔が普通の女子高生しとるんや?
なんで誰もおかしい思わへんのや!あかんて…こいつは…ヤバイて。
「ンフフ〜、どうやら貴方も同類みたいですね〜♪」
「なんや同類て?」
「人を殺したことがある…でしょ」
「!!」
「トロピカール!同じ波長を持つからこそ、あややの正体にも気付いたのね」
「デタラメや!うちは人を殺してなんか…」
「で、私の学校の前で何してるんですか?快楽殺人犯さん」
「誰が…!」
「内容次第では協力してあげますけど、いかが?」
【焦った。同時に考えた。こいつは敵か?味方か?話すべきか、そうでないか】
【思考はすぐに終った。うちには時間がない。そして力もない。迷う必要がない】
もはや生に執着も未練もあらへん。あいつに…ののに会えるならば…
うちは悪魔とでも手を組んだる!
【悪魔が僅かに微笑んだ気がした】
【彼女は松浦亜弥と名乗った。大財閥の跡取り娘やった。】
【訳を簡単に話すと、彼女はうちをお屋敷に匿い、夕女の制服を貸してくれた。】
【もちろん松浦にも肝心な部分は伏せたままや。その辺は適当にごまかしといた】
【気付いてか気付かずか、とにかく松浦はうちに手を貸してくれた】
【松浦の家は裏の世界でも相当の地位にあるらしく、奴等にもそうそう手は出せない】
【翌日からうちは借りた制服を来て、堂々と学舎内を歩き回った】
【そして捜索を始めて三日目の放課後、ついにののを見つけた】
【成長したののは見違える程の美人になっとったが、うちは特別驚かへんかった。】
【子供の頃から、あいつは大人になったら美人になる思てたから】
【一緒に本物の石川梨華がいたことのが驚いた】
のの…!殺る気か?話し声が聞こえる。揉めてるで。明らかに険悪な雰囲気…。
どうする。止めるか。それとも…それとも何や?うちはどうしたいんや?
何の為に全てを捨ててここまで来たんや?何の為に悪魔と手を組んだんや?
このままやと、ののはうちと同じ人殺しになってしまうで。
うちと同じ……!
ののがうちと同じになる!?それか?うちが望んでたのはそれなんか?のの!
そや、殺れ!殺ってまえ!のの!お前もうちと同じや!お前もバケモノや!
やっぱりお前だけは…。お前だけは何時までもうちと一緒なんや!裏切らへん!
さぁ、のの!こっちへ来い!そいつが憎いんやろ!殺してええ!
そいつを殺してお前もこっちの世界に来い!もう一度、うちの隣に来い!
「嘘だ。嘘だあああああああああああ!!」
「待って!待って!ののちゃん!」
えっ、ちょい待てや。違うで、間違ってるで、のの。何逃げ出しとんねん。
お前の選ばなあかん選択肢はそれやないやろ。お前が殺さなあかんやろ?
殺し方がわからへんのか?刺し方がわからへんのか?簡単やねんで。うち知ってるもん。
見てみい、のの。こうや、こうやって殺すんや。うちがお手本見せたる。
コラコラ石川梨華はん。なに逃げ出そうとしてんねん。脅えた顔しても無駄やで。
うっさい悲鳴やのぅ。ほら、こうして口を刺してしまえば、もう声も出えへん。
のの、見てるか。うち上手やろ。石川梨華もうピクピクしとるで。
しかし…こんくらい我慢できへんなんて、根性ない女やのう。なんか腹立つわぁ。
うちの顔なんかもっとボロクソになったんやで。こんな風に!こんな風に!こんな風に!