【うちらは普通の子供として、学校に通うことも許された。それも実験やて】
このおっさん等も、そない悪い人等やないかもな。
どんな形であれ、病に苦しむ人々を救いたい想いに嘘はないみたいやし。
うちのがよっぽど悪人や。友達を殺してのうのうと生き延びとる。
でも死ぬ訳にはいかへん。今死んだらなっつあぁんが一人になる…
なっつぁんが幸せになるまで、うちは死ねへん。死ねへんのや。
【そんなうちの気持ちを嘲笑うかの様に別れは突然訪れた】
【なっつぁんが東京の高校に転校する言い出したんや】
【離れ離れになるんは寂しかったけど、なっつぁんの意志を止める気はなかった】
【たまに電話で泣き言ゆうなっつぁんを、うちは温かく慰めたった】
【電話の影でうちも泣いた。会いたかった】
【ほんまは知っとった。別のデータをとる為に異なる環境でも暮らしをさせたこと】
【でもうちらは逆らうことはできひん。うちらはアイツ等に生かされとるんやから】
【何もできない自分を呪った】
【月日は流れた。高校を卒業したうちはそのまま北海道で職に就いた】
【勉強もそないできへん女子高生やのに、一流の会社がやけにあっさり推薦くれた】
【上の圧力を知った。でもうちにはそれを断る理由も誇りもない。素直に乗ったんや】
【こうしてこのまま社会に出て、一生このレールに乗って死ぬのかと思えた】
【あの日、あの名を聞くまでは…】
「石川梨華の学校に石川梨華が現れたそうです」
「まさか…ただの同姓同名に決まっておる。…いるはずはない」
「ええ、口封じも完璧漏れるはずはありません。」
「存在せんのだ。我々以外にあのことを知る者が存在してはならんのだ」
【いつもの様に、状態チェックを受けに研究機関を訪れたときやった】
【おっさん等がなんや騒いどった。あの事件のことゆうのはすぐに解った】
【石川梨華て名は知っとったから。あの島でのたった一人の生き残りやゆうことも】
【でもうちは別に興味あらへんかった。関わりたくもなかった】
「加護亜依君。これから君にいくつかの質問をする。よいかね?」
「…へい」
【ここではうちの気持ちなんて関係ないんや。聴かれたら答えなあかんのや】
「あの島でも出来事、当然誰にもしゃべってないだろうね」
「思い出したくもないです。話せと言われても言う気はないです」
「よろしい。無論、安倍なつみ君にも話してはいないだね」
「なっつぁんは自分を普通の子と思とる。そんななっつぁんに…話せる訳ない」
「フム。では次の質問だ。墜落事故から脱出した人物は全部で何人いた?」
【わかりません。そう答えようとしたとき、白い人は5枚の写真を取り出した】
【1人の女の人と、4つの死体が写っとった】
「これが生存者の石川梨華。残りがあの島で見つかった死体だ。間違いないね?」
「数合ってますね。うちら二人を合わせて全部で七人です。はい。」
「そうか。答えは出た。やはりあれはただの偶然、ただの同姓同名だ。ワハハ」
ののがおらん!死体が四つ。うちはののも死んだんやと思とった。でも違った。
さっきの写真、マコと…あさ美と…里沙と…全然知らない人やった。
孤島の生存者と呼ばれとる七人のどこにも、ののの名前があらへん!
ののは死んでへん!ののは生きとるんや!生きて…どこかで…
【そのとき、うちの頭の中で線が一本に繋がった】
石川梨華を語っとるはののや!あいつ復讐する気や!
【人形の様に冷たく止まってたうちの感情が、一気にうねりとなって荒れ狂った】
【心の奥底に潜めた闇が再び全身を覆い尽くす。黒がうちを染める】
【うちは飛び出していた。それまでうちを捕らえていた束縛の全てから】
行ってどうする気や?ののを殺す気か?ののを止める気か?わからん!わからへん!
でも行かなあかん!あいつの…あいつを…あいつが…!
【うちは大声であいつの名を叫んでいた】