【黒に染まったうちは、一人で歩いてる奴を見つけ無差別に切裂いていった】
【それがたまたまマコであり、里沙であっただけ。何の感情も湧かへんかった】
【憎悪と嫉妬と痛みだけがうちの体をグルグル回っていた】
【そしてまた一人獲物を見つけたうちは、手にした尖枝を構え後ろから襲い掛かった】
【運動神経のええ女やった。うちの体がもうボロボロやったのかもしれへん】
【背後からの奇襲は躱された。うちはつまずいた。その先に崖があったんや】
断崖絶壁、落ちる。こっから落ちたら死ぬなぁ。死ぬ。もうええかぁ…
んぁ?暖かい。手が暖かい。人の手…
【見上げると、あの女が崖に落ちかけたうちの手を掴んでた。信じられへんかった】
【こんな醜い、心まで闇に染まったバケモノを!自分を殺そうとしたバケモノを…!】
「(放せ!手を放せ!うちはもう死にたいんや!)」
「…ゆうな」
「?」
「死ぬなんてゆうな!」
【枯れてなければ、うちはあのとき泣いてたかもしれへん】
何でや?何でこの人はこない真似するんや?何でうちを助けようとするんや?
うちが何しようとしたのか、分かってへんのか?殺そうとしたんやで!
お前を苦しませようとしたんやで!うちはバケモノなんやで!
顔や姿だけやない、心まで悪魔に売り渡してもうたバケモノなんや!
生きてたってなんもええことあらへんのや!うちなんか死んだ方がええんや!
こない醜いバケモノが生きてたって、誰も喜ばへんのや!
…殺したんやで。うちは友達を二人も殺したんやで!もう何もかも遅いんや!
マコはうちに気付いてた。うちの名を呼んだ気がした。それでもうちは刺したんや!
こんな姿見られたくないから!元気な顔したマコが憎かったからや!
うちはこんな汚い奴なんや!もう死なせてくれ!うちは死ななあかんのや!
生かしたらうちは多分お前を殺す。ののも殺す。他の奴も皆殺す!
だから放せ!放せ!放せ!うちを死なせてくれ!
【それでもあの人は手を放そうとせんかった。やがて支えていた草の千切れる音した】
【落ちた】
【女は空中でうちを抱きかかえた。まるで衝撃から守る様に…】
【こんな醜いバケモノを…この人は優しく包み込んだんや。】
あったかい、あったかいよ。人のぬくもりってこないあったかいの?
この人は天使や。
神様、お願いがあるん。顔も心も汚のうなったうちやけど、一個だけ聴いたってや。
うちはどうなったてええ、死んでいい。地獄に堕ちてええ。
せやけどこの人は…この人だけは助けたってぇな。お願いや。お願いや、神様。
お願い…
「ごめんね…のの」
【天女が小さくそう呟いた。】
【それが最後に聴いた声。うちは崖から海に落ち、死んだ。】
【そう、うちはあそこで死ななあかんかったんや】