なつみは希美をゲンコツで殴った。驚きと痛みのあまり希美は思わず頭を抱える。そこ
へすかさず、なつみはもう一度ゲンコツで希美の頭を小突いた。ついに我慢ができなくな
った希美はなつみを睨み付けた。
「なにするの、真希さ…!」
そのとき希美の眼に飛び込んできたのは、なつみの涙であった。真希の涙であった。
「馬鹿!どうして…どうしてこんな真似したのよ!」
「真希さん…記憶…!」
「あんた、自分が警察に追われてること知ってるの?」
希美は首を縦に振った。知らないはずがない、だけど…
「じゃあどうして?どうしてこんな目立つ、危険な所にずっといたの?」
「……だって」
「みつかったら…捕まったらどうするの?人殺し扱いされてるんだよ?」
「だって…」
約束だよ。きっとまた会いに行く。
例えこの身が朽ち果てても…
「だって…貴方に…会いたかったんだもん!」
例え名前が全然別の名に変わったとしても…
例えこの顔が…この姿が…全く違うものになっても…
「だってぇ…ぜったい来てくれるって信じてたんだもん」
例え…私の命の灯が消え失せたとしても…
「約束…したよねぇ」
私は必ず君を迎えに行く。
「あんたが石川梨華なのかどうかなんて知らない」
「あんたが本当に人殺しなのかも知らない」
ののにはわかるんです。
例え…顔も背も声も性格も…全然違っても……
「私はあんたのことなんて全然知らないし…」
「約束も知らない!」
例えあなたがのののことを忘れてしまっても…
「だけど…なんでだろ?私は今こんなに…」
だって宇宙でただ一人、ののが愛した人なんですから。
「こんなに、あんたが好きだ!」
でっかい宇宙に小さな星がある。
その小さな星に小さな島国がある。
その片隅で今二人の娘が口付けを交わした。
地球の歴史からすれば1ページにも満たない小さな出来事。
赤い大地と青い海の惑星は、今日もいつもと同じ、回り続けている
〜最終話 約束の場所で約束のあなたと 終〜
紫の章 END