〜第六話 青の章 同じ星〜
目が覚めると、私は見慣れない教室の一角で腰を下ろしていた。隣にはあいぼんがいた。
麻琴がいた。里沙がいた。あさ美がいた。そして真希さん、ひとみさん、梨華さんもいた。
みんな状況を掴めていないみたいで、少し動揺している。木造の古びた校舎、ここは一体
どこなんだろう。あいぼんに声を掛けようと体を起こしたら、教室の扉が開き銃を構えた
軍人みたいな男達がぞろぞろと中に入って来た。最後に、一人だけで偉そうな格好をした
男が現れ教壇に立った。
「今から、最後の一人になるまで、みなさんに殺し合いをしてもらいます」
誰かの息を飲む音が聞こえた。こういう映画をどこかで見たことある。こんなこと現実
であっていいはずがない。どうして私達が殺し合いなんかしなきゃいけないんだよ。文句
を言おうと私が立ち上がろうとするより先に、あいぼんが立ち上がって叫んでいた。
「アホかボケナスゥ!殺し合いなんかせえへんわ!」
駄目だよあいぼん、それは私の台詞だよ。そんなこと言ったらあいぼんが殺され…。そ
こで私はあの映画を思い出した。これと同じ様な状況、そして一番最初に死ぬのは、主人
公の一番の親友…。
「君は加護君か。もう決まったことなんですよ。保護者の方々の許可も下りています。」
「なんやて?」
「おいお前達、あれを持ってこい。」
「はい、ヤマザキ様」
ヤマザキと名乗る自称教師が軍人達に合図すると、廊下からシーツに包まれたたくさん
の何かが運ばれてきた。嫌な予感がする。ヤマザキは無造作にそのシーツを剥ぎ取った。
悲鳴があがった。それは死体の山。お母さん、お父さん、お姉ちゃん、みんなの家族。
「ほらね」とヤマザキは卑らしい笑みを浮かべた。
「うわああああああああああ!!!」
切れたあいぼんがヤマザキに向かって走り出す。軍人達の銃が一斉にあいぼんに向けら
れる。無情な銃声が、まだ幼い少女の体を蜂の巣にする。何の抵抗もできず、あっけなく
加護亜依は殺された。冷たい目でヤマザキは言った。
「あと七人」
「うわああああああああああああ!!!!」
顔を上げると、目の前にビックリ顔の真希さんがいました。膝に砂の感触、波の音も聞
こえます。ここは砂浜?今のは夢だったの?
「どうした?大きな声出して」
「変な夢…みた」
「夢?どんな?」
「言いたくない…」
「ふうん」
真希さんはそれきり何も聞かず、ただ私を優しく抱きしめてくれました。
(夢じゃない…)
(夢じゃないんだね…あいぼん)
みんないなくなったこと、あいぼんが死んだこと、それは夢でも何でもなく、確かな現実。
私は独りになった。涙が込み上げる顔を包み込むぬくもりに預ける。
(あったかい)
それも違う。ひとりじゃない。このぬくもりはひとりじゃないんだよね。
悲しんでばかりいられない、私は生きるってあいぼんと約束したんだ。私は手で涙を拭
き取り、真希さんのぬくもりから顔を上げ、無理矢理にでも笑顔を作りました。
「ありがと、もう大丈夫」
「そう」
私が笑顔を作ると、真希さんも笑みを浮かべました。それから私は横に並んで、二人で
海を眺めながら、たくさんたくさんおしゃべりしました。学校のこと、家族のこと、友達
のこと、今までの私のこと、真希さんも自分のことを、いっぱいいっぱいおしゃべりしま
した。私達の声と波の音だけが、静かにその空間に潅がれていました。そんなときふいに、
真希さんが囁いた一言が、私の胸をジンとさせたのです。
「生きて日本に帰れたら、一緒に暮らそうか」
1. また泣いちゃいました「…うん」
2. 「ヤダ」
3. 「七人、みんな一緒の方がいいよ」