サウンドノベル5「赤と青」第六話〜

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736辻っ子のお豆さん
私は世界の海をまたに駆ける冒険家、石黒彩。
人読んで「赤字のアヤ」。
この呼び名には二つの意味がある。
一つは自分が到達した辺境の地で、記念にと赤い文字のアヤを残していくからだ。
もう一つは単純にお金がないってこと。
だけど私はそんなこと気にしない。
世の中には金なんかより、もっともっと素晴らしいもんがあるってこと知ってるからだ。
今日も相棒のブーちゃんと一緒に、自慢のセイルを走らせてるのさ。
さぁて、どこぞにお宝でも探しに行こうかねぇ。
なあんて思ってたら海に変なものが浮かんでるんだよ。
丸太に捕まってプカプカしてるのは…おいおい女の子じゃないの?
こんな沖合いまで海水浴…な訳ないか。
よーし待ってな、今助けてやる。ほらブーちゃん、ボーッとしてないで網、網。
おお白い鍵か。ホワイトキー探し〜て♪…ってそれはアミーゴだボケ!
まあ、そんなこんなで私達は女の子一人を助け出したって訳だ。
737辻っ子のお豆さん:02/11/24 16:37 ID:nbmIXhgH
驚いたのはその子の胸の辺りが真っ紅に染まっていたこと。
意識もないし、まさか死体を拾い上げたのか…って思ったよ。でも違った。
頬を叩いくと女の子は気が付いて、途端に大声で騒ぎ出した。
その内容が「死ぬ」とか「殺される」とか物騒でしょうがない。
私はその子が落ち着くまで待って、ちゃんと話を聞くことにした。
何かただ事ではない気がしたからだ。そして残念なことにその予感は当っていた。
とある孤島に不時着した数名の少女が殺人鬼に皆殺しにされた。
そして最後に残った自分も胸を切裂かれて殺された、と女の子は語った。
いや、お前生きてんじゃん。とツッコんでおいた。
彼女はシャツの破れた辺りを探った。すると内ポケットから切裂かれた赤チンが出てきた。
どうやらこれのおかげで彼女は助かったみたいだ。
吹き出た赤チンの液体を血と見間違え、殺人鬼は殺したと思い込み生き延びた。
話を終えると女の子はまた、泣きそうな顔になってきた。
私は何とか泣くのを止めようと必死で話題を探した。
内ポケットがあるなんて変なシャツだな。
そう話し掛けると、女の子は少し照れながらこう言った。
「えへっ、のの特製なのれす」
738辻っ子のお豆さん:02/11/24 16:38 ID:nbmIXhgH
こんな話を聞いて黙ってちゃ「赤字のアヤ」の名が泣くってもんよ。
ブーちゃんも黙って頷いてる。さすがもう言わなくても分かってんね〜。
その殺人鬼とやら、このアヤが成敗してやる。私はののと言う少女にそう言った。
するとののも立ち上がり私の横に並び、海に向かって大声で叫んだ。

「みんなー!絶対仇はとるからねー!」

迷いのない強いイイ眼をしていた。こいつ気に入ったぜ。
私はセイルをののが流れてきた方向へと向けた。いざ殺人鬼の島へ!

…と勢い込んでから一週間が過ぎた。
意識朦朧と流れてきたののに方向が分かる訳もなく、他に当ても何もない。
この広い海原で一つの小さな島を探し当てることは不可能に近い状況だと気付いた。
結局私達は目的の島に辿り着くことはできなかった。
そろそろ手持ちの食料も尽きるということで渋々帰路についた。
もちろん、ののも一緒に。
739辻っ子のお豆さん:02/11/24 16:38 ID:nbmIXhgH
入り江に囲まれた小さな漁村が私達の住み処、面倒な社会に干渉されないいい場所だ。
私はブーちゃんと、ののの今後について話し合った。
普通に考えるならば警察に連れて行くべきである。話もその方向でまとまった。
あまり気は進まないが、私はそのことをののに伝えようと声を掛けた。
ののはTVの前で固まっていた。ニュースがやっていた。
【ジャンボ旅客機墜落!奇跡の生存者一名!石川梨華さん】
泣きながらののは私の胸に飛び込んできた。

「あいつが!あいつが皆を殺したの!あいつが私の…を…殺し…ウワアアアアアン!!」

私はののを警察に連れて行くのを辞めた。
この子が一人前のいい女になるまで、この子の面倒は私が見る。
その代わり一人前になったらそこから先は彼女次第、自分は一切干渉しない。そう決めた。
最初は猛反対したブーちゃんも、説得に説得を重ね何とか折れてくれた。
こうして冒険家「赤字のアヤ」は一時的に三人組となった。
…そして4年の歳月が流れた。
740辻っ子のお豆さん:02/11/24 16:45 ID:nbmIXhgH
「彩さん、ブーさん、今までありがとうございました」
「おう」
「ブー言うな」
「えへへ、じゃあ私行きます」

あの日、海で見つけた小さな女の子は美しい娘にと成長した。
それは同じ女である私が思わずため息を飲んでしまう程の美しさだった。
しなやかに伸びた手足、均整の取れたスタイル、天女の微笑み。
あの頃とはまるで別人だった。

「初期ののとウドののくらい別人だ」
「何だ彩、その例え?」
「いや独り言」

小さなカバンを一つだけ手に、彼女は去っていった。
その後、辻希美がどうなったのか、私は知らない。
でも心配はしていない。彼女はもう私が認める一人前のいい女だからだ。
741辻っ子のお豆さん:02/11/24 16:52 ID:nbmIXhgH
という訳で
5.石黒
が正解でした。サギですね。

次回はひさぶり辻視点の予定