709 :
辻っ子のお豆さん:
バラバラバラ…
上空でヘリの音が聞こえる。あれから三回目の昼と夜を越えた。
食料はとっくに尽き、水だけで過す日々、石川梨華は死を覚悟していた。
飛行機の残骸が残る最初の海岸に戻り、砂浜でじっと横たわる。
その耳にヘリコプターのプロペラ音が聞こえた。
太平洋上を探索していた救護隊がようやく訪れたのであった。
こうしてたった一人の生き残り、石川梨華は命を救われた。
公にも大々的に報道された。奇跡の生還者石川梨華と。
すぐに病院に運ばれ、体が回復した頃、偉そうな人達が梨華の病室にやってきた。
「これからの君の処遇についてだが…」
梨華には身寄りがなかった。その名も新聞に載ってしまった。
彼らは梨華に新しい家族と新しい名前と新しい生活を用意した。
優しそうな老夫婦が病室の所に立っていた。この人達が新しい両親。
あの島の出来事を絶対に口外しないこと、それが条件。
梨華にとってはむしろ好条件。消したい過去を忘れることができるのだから。
こうして、石川梨華の村田めぐみとしての新しい人生が始まったのであった。
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薄暗い部屋に座る数人の男達。
「彼女の了解を得ました。これで二つの命を気にする存在はなくなりました。」
「当然でしょう、あの二つも他のそれと同様墜落死ということになっています」
「それどころか島上で発見された4つの他殺死体、あれも墜落死扱いだろ」
「目撃者はおらんのだ。落ちて死のうが殺されて死のうが知ったことではない」
「崖の下の岩陰で寄り添って眠る二つの植物人間か、ドラマを感じますねぇ」
「生存者1名、死体4つ、植物人間2人。計7名の娘達に何があったんだろうな」
「くだらん。我々に重要なのは自由な心臓が二つ手中に入ったということだけ」
「ですな。さて殻の方ですが、すでに一名は決定しております」
「この間の資料にあった不治の心臓病を持つ17歳の娘か。」
「ええ、現在北海道の病院にて生き長らえている状態。身寄りもありません。」
「なるほど、で、どちらの心臓を使うのだ?」
「それも後藤真希で決定しています。もう一方ではいささか小さすぎる為」
「確かに小さい、データでは14と聞いておるが、写真では小学生かと思った」
一同笑。
「さて、くれぐれも慎重に。行動の漏洩は絶対に避けろ」
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村田家の養女として生きることとなっためぐみはその後、平凡だけど幸せな人生を過す。
新しい土地での新しい生活、皆いい人達ばかりだった。
両親は優しかった。新しい学校では友達もできた。恋もした。
普通の生活に普通の女子高生、めぐみは普通に高校を卒業し短大へと進んだ。
短大を出ためぐみは普通に教職に就く。
優しかった親元を離れ、また別の場所でがんばってゆくことを決意する。
私立夕凪女子校、そこがめぐみの新しい始まりの場所。
慣れないことも多く、色々と苦労もあるけど、自分ではうまくやっていけると思っていた。
夏の足音が聞こえてきたあの日、忌まわしき過去を思い出させるあの娘が現れるまでは…
「石川梨華です。よろしくお願いします」
隣のクラスに一人の転入生が入ったと聞いた。すごい美人だという噂と共に…
だがめぐみは愕然とさせたのは、その噂でも何でもない。
その名が…忌まわしき過去に呪われたその名が…
村田めぐみは必死で自分を否定した。そんなはずはない、これはただの偶然だと。
だがどうしても、気にするなという方が無理な相談であった。
石川梨華という名の娘とすれ違った。思わず息を飲んだ。
女の自分の眼から見ても圧倒的に美しかった。これまで美しい娘は見たことがない程。
だけど同時に少しホッとした。自分の記憶にない美しさだったことに。
知らない子だ。偶然名前が同じだっただけだ。めぐみはそう理解することに決めた。
それでも、なぜか眠れない日が続いた。胸騒ぎが止まらないのだ。
止む無くめぐみは、石川梨華の唯一の友人である柴田あゆみという娘に近づいた。
少しでも石川梨華という娘の情報が欲しかったからだ。
最初は渋っていた柴田だが、村田のあまりのしつこさについに折れ、口を開いた。
自分と石川には同じ秘密があるということ。
昔一年近く入院したせいで、本当は同級生より年齢が一つ上だということ。
石川梨華は柴田あゆみ共に本当は18歳であるということ。
実は同じ歳だったということが、二人が仲良くなったきっかけだという。
それ以外は、特に変わった事実はなかった。石川梨華は普通の女子高生だった。
ついに村田は分からなかった。その胸騒ぎの理由が…。
そしてその日は訪れた。石川梨華が転入して一瞬間程過ぎた日だった。
放課後、一人仕事をしていた村田めぐみに声を掛けてきた娘がいたのだ。
石川梨華だった。
そして、この日が村田めぐみ(石川梨華)の命日となる。