595 :
辻っ子のお豆さん:
とりあえず話だけでも聞いてみる。何時でも逃げれる体制をとりつつ。
「まこっちゃんも、里沙も、……真希さんも、みんなみんなあさ美が殺したの!?」
「違う!違う!私知らない!何もわからないの!」
「じゃあどうして!どうしてこんなこと?」
「目が覚めたら目の前に麻琴があんなことになってて…私何が何だかわからなくて…」
「あさ美…」
「見たこともない場所に一人きりで、誰も居なくて、私も殺されるんだと思って…」
あさ美は頭を抱えて泣きじゃくりながら、胸の内を次々と明かしていった。そして私は
だんだんと理解していった。彼女は本当に不安で脅えていたこと。無理もない、ずっと意
識を失った状態で、目を覚ますとそこは知らない場所、隣には親友の死体。正常でいろと
いう方が無理な相談かもしれない。
意識を取り戻したあさ美は、折れた足を引きずってなんとか逃げようと小屋を出たそう
だ。しかし小屋の外はこれまた見覚えのない森の中、どっちへ逃げればよいのかもわから
ない。あてもなく森の中を進む、痛む足をかばいながら無我夢中で。やがて見つけたのは
親友の一人、息をしていない新垣里沙。この時点で紺野あさ美の精神はすでに限界を通り
越していたのだろう。
(殺される…私も殺される)
さらに森の奥へと奥へと進む。そして木々の隙間に背中が見えた。見覚えのない背中。
(こいつが皆を殺したんだ。私も殺す気でいるんだ)
ドクン…ドクン…
気が付くと足元に転がっていた木の枝を拾っていた。足が動いていた。自分でも信じら
れない力で、枝の先を背中に向けて突き刺していた。そして逃げた。もう思考はその働き
を止めていた。
「よっすぃー!」
さっきの場所から別の声が聞こえた。
(仲間がいる。そいつも殺さなきゃ、私はまだ助からない。)
紺野の足は独りでにUターンを始める。その手にはまだ紅い枝が握られていた。
私はあさ美の話を聞き、何も言い返すことができずにいた。こんなとき彼女に何て言っ
たらいいのだろう。叱責か、慰めか、軽蔑か、同情か?
「ののちゃん、私…人殺しになっちゃった」
「…」
鳴咽を洩らしながら、あさ美は顔をあげた。正常な意識を取り戻したその顔は、凶悪な
殺人者のものではなく、ただ絶望と後悔に喘ぐ私の親友の顔であった。
「もう私に生きる資格なんてない…」
その瞬間、辺りがスローモーションになった。あさ美がその手に持っていた尖った枝を、
自分の喉に突き刺し、鮮血を吹き上げて、バタンと仰向けに倒れた。目の前の出来事に、
私はポカンと口を開けていることしかできなかった。
後ろによっすぃーの死体、前にはあさ美の死体。みんな、みんな死んでしまった。
(この島で一体何が起こっていたの、どうしてみんな死んでしまうの?)
(あさ美が殺したのはよっすぃーだけ。じゃあ、麻琴と里沙と真希さんを殺したのは…)
(今この島で生き残っているのは、私と…。)
色んな色んな考えが、頭を巡る。でももう考えられることはそんなにない。
「梨華…さん…?」
少し離れた所に石川梨華が立っていました。いつも明るくて優しい梨華さん。
でもそこに立っていたのは、私の知らない顔をした石川梨華でした。
石川梨華は何も言わず、私の方へ走ってきました。その手には細身のナイフがありました。
私は動くことができなかった。何もできなかった。
細身のナイフは私の胸を切裂き、紅い液体が服の下から吹き出しました。
そして私はようやく理解したのです。
すべての黒幕、皆を殺した人物、それが誰かということ。
辻希美は深い眠りにつく。
何時目覚めるともつかない深き眠りに…
最期に見たのは、青く広がる空だった。
〜第八話 終〜
青の章 END
600 :
次回予告:02/11/10 17:51 ID:5OCBgJ8a
赤と青が一つに繋がる時が近づいている
安倍なつみと石川梨華が再び出遭うとき
すべての謎は明らかになる