この状況でこんな話題は不謹慎だけど、逆にそれくらいの方が怖さを忘れることができ
て良いと思いました。
「やせる方法教えて下さい」
「やせる方法?」
「うん、ののも梨華さんみたいにきれいになりたいんです」
その気持ちは本当でした。背も小さくて、足も太くて、お腹も出てて、全然女の子らし
くない私にとって、梨華さんは理想そのものくらい輝いて見えたのです。
「ののちゃんは今でも十分可愛いと思うけど」
「駄目、かわいくないの。もっと大人っぽくなりたいんです」
「どうしたの、急に?」
「え、あのー」
「好きな人でも、できた?」
梨華さんはたまにするどい。
後藤真希さんは眩しかった。その振る舞いにはオーラがあった。二つ違いとは思えない
くらい、私の眼には彼女が大人の女性に写った。私はあの人の隣にいても恥ずかしくない
存在になりたかった。例えばよっすぃーや梨華さんの様に。こんな相談、恋のライバルで
あるよっすぃーにはできません。だから梨華さんにしか聞けなかったのです。
「うん、だからやせてもっときれいになりたいの」
「そっか、ののちゃんも女の子なんだぁ。いいよ教えてあげる」
「本当!」
「気持ち分かるから。実は私も昔、ちょっと太ってたんだよ」
「ええー!」
すらっと伸びた細い手足、締まったウエスト、とても今の梨華さんからは、太った姿等
想像できません。私はお腹のお肉をぷにっとつまんだ。
(ののもあんな風になれるかなぁ)
「どうやってやせたんですか?」
「特別なことはしてないよ、自分で決めたことを守り続けただけ」
「?」
「夜お菓子を食べないとか、毎日腹筋を続けるとか」
「なるほど」
「何をするにしても大事なのは自分の意志。決心を曲げない強い意志だよ」
「わかった。ののも決心した。もうお菓子食べない。毎日腹筋する。」
「アハハ…単純」
自分で言うのも変だけど、私の決心は固かった。大好きなお菓子を止めてでも、私はあ
の人の隣にいたかった、それくらい好きで好きでたまらなかった。
「でもねののちゃん。やせるやせないより、もっと大事なことがあるんだよ」
「なに?」
「外見じゃない、ありのままの自分を見てもらうこと」
「きれいになったののを見てもらうことと違う?」
「ウーン、まだ難しいか、そのうちののちゃんにも分かるよ」
この時の梨華さんの言葉、その意味を知るのはずっとずっと後でした。
気が付くと、話が弾みずいぶんと遠くまで歩いて来てました。見覚えがあると思ったら、
ここは真希さん達と最初に出遭った場所の近く、茂みの先にあの谷が見えました。ここで
私は真希さんに助けられたのです。
「何か落ちてる」
ふいに梨華さんが崖の手前を指差しました。そこに落ちていたのは赤い靴、私達はそれ
に見覚えがあった。
―――――――――――――――――――――――――――真希さんの靴
全身から体温が抜けていく感じ、一瞬にして体が凍り付いていく。私は崖の際まで走っ
た。崖から下を恐る恐る見下ろすと、海へと通じる谷底で波が激しく岩を打ち付けていた。
何かが岩陰に引っ掛かり波に打たれていた。それにも見覚えがある。見たくない、信じた
くない。真希さんの上着によく似ていた。私は声にならない悲鳴をあげた。真希さんはも
うどこにもいなかった。
「死ぬなんて言うな!あんたはまだ生きてるでしょ!」
真希さん…もう死ぬなんて言わない
「私が、あんたの生きる支えになってやる。」
真希さん…あなたが私を救ってくれた
「生きて日本に帰れたら、一緒に暮らそうか」
真希さん…約束したよね
「私は辻希美を愛している」
真希さん…
「どうしてだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
天に向かって吠えた。家族を…親友を…そして今度は…
ワタシハスベテヲウシナッタ