46 :
辻っ子のお豆さん:
また泣いちゃいました。
「…うん」
生きて日本に帰ったら一緒に暮らす。それは家族を失い何もかもを無くした私にとって、
一番欲しかったもの。私はこの人と生きて行こう。紅みの差す海原にそう誓いました。
「そろそろみんなの所に戻ろうか、心配してるだろうし」
「うん、そうだね」
二人きりでいられなくなるのは少し寂しかったけど、早く皆の顔を見たいという気持ち
もありました。私と真希さんは手を繋いで、海岸線を機体爆発のあった方へと歩き出しま
した。爆発の影響で思ったより流されたみたいで、見覚えのある景色に到着するまでには
結構な時間が掛かりました。やがて爆発跡の残る砂浜付近に辿り着き、いくつかの影を見
つけることができました。一番近くにはひとみさんがいました。その姿を見つけた真希さ
んは笑顔に戻り、大声で叫びました。
「ただいまーよっすぃー!!」
「ごっつぁん!!」
「希美!」
ひとみさんが、そして麻琴が笑みを満開に咲かせて、こちらに走り寄って来ました。砂
浜の中央で真希さんとひとみさんは抱き合って感動の再会を果たしました。ちょっと嫉妬
するくらい仲良しコンビに見えました。なんて考えていたら私の方にも麻琴が突っ込んで
きて、そのまま砂浜に倒されました。
「馬鹿希美!何でこんな危険な真似すんのよ!!」
「ごめん、あいぼんを助けたかっ…」
「馬鹿!馬鹿!あんたまでいなくなっちゃたら、私…私…」
麻琴は顔をくしゃくしゃにして私に泣きついてきた。彼女がこんなにも心配していてく
れたとわかって、私はまた泣けてきました。さっきから泣いてばっかりだ。
「ごめんね、ごめんね、麻琴っちゃん」
砂浜の向こうでは梨華さんが顔に手を当てて泣いているのが見えました。その腕や足が
汚れている、きっと私達を探す為に必死になってがんばってくれたんだ。みんな、こんな
に心配してくれていたんだ。そうだ、私は一人じゃないんだ。みんなで日本に帰るんだ。
(夢のバーカ!殺し合いなんてするはずないよ!)
探し疲れたのか、里沙は寝息を立てていました。あさ美はまだ意識が戻っていませんでし
た。日も暮れかけています。ひとみさんと真希さんが二人を背負い、私達は寝床を探す為
に移動することにしました。
「ねえ、あれ!」
一列で山を昇っていると突然、梨華さんの甲高い声が響きました。その指差す方向を覗
き見ると、木々の隙間に一軒の小屋の様な物を見つけました。私達は顔を見合わせ、その
方向へと駆け出しました。小屋があるということは誰か人がいるかもしれないということ、
助かるかもしれない。そんな期待が胸いっぱいに広がってきました。
「すいませーん」
「誰かいませんかー」
返事はなかった。人気もなかった。
木造の掘っ建て小屋、手入れもされておらず埃だらけで、とても誰かが住んでいる様な
雰囲気ではありませんでした。それでも外で寝るよりは何倍もマシ、この小屋で夜を明か
すことに反対する人は誰もいませんでした。
「あれ、何だろう?」
真希さんが言いました。壁にナイフで刻まれた文字が浮かび上がっていたのです。
『アヤ』
そう書いてある様に見えました。梨華さんが答えました。
「ここの持ち主の人じゃないかなぁ」
といっても判断する手段はなく、持ち主ということで皆納得しました。私達はとりあえず
ホコリを払い、すでに眠りに就いている二人を横にして一息付くことにしました。小屋の
中には本当に何も無く、ただ休む為だけに作られた様な感じでした。こんな所に一体誰が
(アヤという人か?)何の為に建てたのか。わからないことだらけでした。
気が付くと、麻琴と真希さんも眠っていました。
(寝顔もきれい)
愛しい人の寝顔に思わずポーっと見とれてしまった。私は飛行機内でも、さっきの砂浜
でも少し寝ていたので、そんなに眠気はありませんでした。ひとみさんと梨華さんは寄り
添って何かお話をしていましたが、私が起きていることに気付くと、ひとみさんが声を掛
けてくれました。
「どした?腹へって眠れないか?」
「そんなんじゃないよ」
「私も寝付けないから、ちょっと散歩でも行こうと思ってるんだけどどう?」
ひとみさんから夜の散歩のお誘い。
1. 快くOKする
2. 残って梨華さんとお話する
3. 断ってもう寝る