424 :
辻っ子のお豆さん:
しばらく小屋で皆の帰りを待ってみることにしました。私とひとみさんはそれぞれあさ
美の両脇に腰を下ろし、扉をじっと見詰め続けました。
10分…20分…30分…1時間…
「いくら何でも遅すぎる!」
いよいよ痺れを切らしたひとみさんがおもむろに立ち上がり叫びました。私ももうじっ
としている気はありませんでした。外へ探しに行こうと顔を見合わせました。そのとき、
小屋の扉を弱く叩く音、そしてか細い声が聞こえたのです。
「だれか…だれかいる!?」
梨華さんの声でした。形相を変えたひとみさんが扉を開けると、そこには泣き顔の梨華
さんと血まみれの麻琴がいました。驚きの余り私は悲鳴をあげてしまった。
ひとみさんが梨華さんに詰め寄ります。梨華さんは麻琴を床に下ろし、震える体をひと
みさんに預けました。麻琴の背中には深い傷痕が見えました。
「何があったの梨華ちゃん!?」
「わかんない、わかんない…見つけたら麻琴ちゃんが倒れていたの」
「落ち着いて最初から説明して」
「あの雨のせいで麻琴ちゃんと逸れて…それで探していたら、小さな悲鳴が聞こえて…
行ってみたら、血だらけで倒れていたの。私どうしたらいいかわからなくて…」
「だから、ここまで担いで運んできたの」
「うん」
「ごっちんと里沙ちゃんは?知らない?」
「知らない、見てないよ」
私は恐る恐る麻琴の手に触れました。冷たい、いつも元気に私達を引っ張っていてくれ
たあの麻琴の面影はどこにもなく、ただ冷たかった。
「まこっちゃん、まこっちゃん!」
僅かだけど、まだ胸は上下に動いていました。私は泣きながら彼女の肩を揺らしました。
麻琴は静かに眼を開きました。そして私達の方を見…
「あうあわあー!!」
突然麻琴は目を血走らせ叫びながら後退を始めました。だけど彼女の口内は血だらけで
まともな言葉にはなってはいませんでした。だが明らかに恐れていた。何かを…
「どうしたのまこっちゃん!大丈夫だよ、ここには私達しかいないから!」
「いうれいああいおおー!」
「まこっちゃん!」
叫び続けた麻琴は血を吹いて、そのまま横にバタリと崩れ落ちました。もう胸の動機も
見えませんでした。
「いやだああああああああああ、まこっちゃあああああああああん!!」
もうどうにもならなかった。あいぼんに続いて、またしても大事な友達を失ってしまっ
た悲しみ、涙が止まりませんでした。いや、これはあいぼんの死と訳が違う。麻琴の死は
明らかに人為的な死、つまり殺人でした。泣き続ける私の体を、後ろからひとみさんと梨
華さんが包んでくれました。小屋には、泣きながら抱き合う私達3人と、眠り続けるあさ
美、そして一つの死体。真希さんと里沙は未だ戻らずにいました。
「私、探しに行く!」
ここにいない二人の身を案じたのでしょう。ひとみさんが急に走り出しました。私は泣
いていて反応が遅れ、気が付いた時にはもうひとみさんの姿は森の奥へと消えていました。
梨華さんも後を追おうと外へ走り出していました。
「待って、ののも行く!置いてかないで!」
一人残されることが急に怖くなり、私は梨華さんの服を後ろから引っ張りました。梨華
さんは振りむいて、泣き顔の私に優しく微笑みかけてくれました。
「そうだね、ごめん。一緒に行こう」
私は梨華さんと手を繋いで、ひとみさんの後を追いました。でもすでに見えなくなって
おり、完全に見失ってしまいました。私は不安で不安で押しつぶされそうでした。
(もし真希さんも麻琴の様に…)
考えたくない想像が嫌でも頭の中をよぎってくるのです。怖くて仕方がなかった。何か別
の話題を考え様とがんばったが自力ではできそうもなかった。それで私は梨華さんに頼っ
たのです。
「何かお話してください」
深く静かな森は、嫌でも恐怖を誘います。梨華さんにもそれがわかっていたので、私の
申し出に快く応じてくれました。
「いいよ、ののちゃんはどんなお話が聞きたい?」
「えーとねー」
1. 真希とひとみのこと
2. 梨華の学校のこと
3. やせる方法