すると、それまで黙り込んでいた飯田が前に出て、懐から一枚の紙を取り出した。
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13:00 藤本 体育館の鍵を借りに来る
15:00 柴田 生徒会室の鍵を借りに来る
15:30 福田 図書室の鍵を借りに来る
19:10 藤本 体育館の鍵を返しに来る
19:30 松浦 体育館の鍵を借りに来る
19:40 福田 図書室の鍵を返しに来る
事件後 柴田と松浦より生徒会室と体育館の鍵を返却
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柴田福田藤本の三人は交互にその紙を除き込む。やがて福田が口を開いた。
「誰も音楽室の鍵は使っていないということですね」
「いいや使える。石川が…いや石川に変装した犯人二人が協力すればね」
福田藤本の顔色が変わる。そして飯田はその二人の名を告げた。
「福田明日香、藤本美貴。犯人はお前達だ」
柴田は思わず一歩後ずさりした。そして二人の顔を交互に見やった。藤本の表情は固まっていた。福田はあからさまに敵意剥き出しの表情に変わっていた。
「カオリが説明してあげる。貴方達二人にしかできない音楽室の鍵を持ち出す方法。」
「……」
「まず19:10に藤本が鍵を返す前、あらかじめ福田が図書室の鍵も藤本に渡しておく。
そして藤本は体育館の鍵を返すとき、素早く音楽室の鍵を取り、その場所へ代わり
に図書室の鍵を掛けておく。こうすれば音楽室の鍵はそのままあると錯覚される。
体育館以外は同じ種類の鍵だからね。19:30に鍵を借りに来た松浦にも気付かれない。
そして貴方達は普通に鍵を開けて犯行に及ぶ。19:40音楽室の鍵を持った福田が、
図書室の鍵を返すふりして、音楽室の鍵と入れ替え元に戻す。それで終わり」
藤本の顔色はすでに青ざめていた。福田は飯田を睨み続けていた。そして反論した。
「それができるという理由だけで、私達を犯人扱いするのですか?」
「いいえ、あなた達が犯人だという理由は他にもあるわよ。ねえ、なっち」
「そう。二人共、言っちゃいけないこと言ってた」
「音楽室の前で真里が来た時、藤本さんは何て言ったけ?」
「何て…って、中に石川がいるから手伝ってと」
「あのとき、誰も中にいるのが石川だなんて言ってなかったよね。何でわかったの?」
「―――!」
口元に手を当てふさぎ込む藤本、全身に鳥肌が立っている。
「そして福田さん。最初に玄関で私が愛のこと聞いた時、貴方は知らないと言った」
「……」
「だけど事件後階段で説明したとき、あなたはこう言ったよね」
「……」
「『許せない。先生の次は私の後輩まで殺すなんて!』って」
「……」
「どうして知らないはずの愛が後輩だって知ってたの?」
「……」
福田も藤本も、もう一言も発しなくなった。
「まぁ、そういう細かいミスの前に、実はもっと大きなミスがあるんだけどね」
飯田が付け加えると、福田と藤本は恐る恐る飯田を見た。
「犯人がわざわざ顔を見せるかバカ!」
校門の前に数台のパトカーが停まっていた。飯田の合図により中から刑事達がおりてく
る。すでに抵抗も逃走もできない状況ができあがっていた。二人の腕に無情な手錠が掛け
られる。藤本は身を震わせ泣きじゃくっていた。福田は呆然としていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
「謝って許されることじゃないんだよ。署に着いたら第一事件の話も聞くからな」
「ち、違います。あれは、あっちは私達じゃ…」
「嘘付け。少しでも罪を軽くしたいってのか、身狂いぞ!」
「本当に違うんです。私達は村田先生には関係ないです!」
男刑事達に取り押さえられ泣き叫ぶ藤本を見ながら、安倍なつみはどこかに違和感を
感じていた。事件解決した気がまるでしていなかったのだ。
(何が起きた!?)
目の前が白い靄に包まれていた。何も見えない、叫び声と喧燥が聞こえる世界。
視界を取り戻そうともがいた。どれくらいの時間を別世界で過したのかわからない。
霞が薄れ、ようやく視界が取り戻せてきた。辺りに同僚の刑事達がいた。圭織もいた。
皆、何が起きたのか理解できていない様だった。そして異変に気付いた。
福田と藤本の姿がなかった。
二人に手錠を掛け、パトカーへと連れて行く間に、突然煙幕が吹き荒れたのだ。
そして福田と藤本がその場から忽然と姿を消していたのだ。
(終ってはいない)
それは事件がまだ続いていることを暗示していた。
ま だ な に も お わ っ ち ゃ い な い
〜第7話 終わり〜