サウンドノベル5「赤と青」第六話〜

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363辻っ子のお豆さん
事件翌日の夕方、藤本美貴と福田明日香は生徒会室にいた。

「あぁ、どうしてこんなことになっちゃったんだろ」
「……」
「だからあんたなんかと組みたくなかったのよ!何とか言いなさいよ明日香!」
「あんまり大きな声出さないでくれる。誰かに聞かれでもしたらどうするの」

 二人の間に険悪なムードが流れていた。とても日頃他人に見せる様な、会長と副会長と
いう関係には見えなかった。今度は声を細め、藤本は福田を睨み付けた。

「高橋を殺したのはあんたなんだからね」
「今さら何?もう遅いわ。あなただって共犯でしょ。」
「私はただ…!」
「あいつが憎かったんだろ。自分の愛する男をいともあっさり奪い取ったあいつが」
「フン、それは明日香、あんたも同じでしょ」

 福田と藤本は同じ男に惚れて、互いにいがみ合う関係となった。ところが、その男をい
とめたのは二人のどちらかではない。高橋愛というぽっと出の一年生だったのだ。二人は
彼女を共通の敵と認め、ちょっと脅してやろうと呼び出したのであった。
364辻っ子のお豆さん:02/10/16 12:17 ID:wp9PNaYP
「殺す気なんてなかった。あんたがカーテンで首を絞めたりなんかするから」
「原因は美貴のバカ力でしょ。私はちゃんと考えて手加減してたわ」
「何よ、私のせいにする気?」
「人のこと言える?フフフ…全部石川梨華のせいにした人が」
「それは明日香の考えでしょ」
「ええ、そうよ。自分でも惚れ惚れする案だったわ。やっぱり私って天才ね」
「悔しいけど、確かにそれは認めるわ。誰にもバレてはいないよね」
「完璧よ。馬鹿な警察はすっかり石川の犯行と思い込んでいる」
「わざわざカツラまで被って変装した甲斐があったね。そしてあの状況も」
「鍵もかかっていたし、みんな窓から石川が逃げたと勘違いしてる」

 思惑通りだった。警察すらも天才福田の罠に陥っていた。このとき、藤本も福田も自分
達が重大なミスを犯していることには、気付きもしていなかった。廊下から足跡が聞こえ
る。バイトを終えた柴田が来たのだろう。二人はまた仮面を被る。普通の生徒会長と副会
長という仮面。何食わぬ顔で。おとずれた柴田も気付かない、今自分が殺人者二人と普通
に会話をしているということ。
365辻っ子のお豆さん:02/10/16 12:18 ID:wp9PNaYP
三人が作業を簡単に済ませ、玄関を出るとそこには安倍なつみと飯田圭織がいた。

「待ってたわ、石川を捕らえる為にあなた達に聞きたいことがあったの。少しいい?」

 安倍の問いかけに三人は頷く。「石川を捕らえる為」というフレーズに二人は油断して
いた。まぬけな刑事と頭の中で馬鹿にしていた。安倍は最初に柴田の方を向いた。

「柴田さん。事件の時あなたは確か、北校舎の方へ向かう足音を聞いたんだよね」
「はい」
「藤本さん。あなたは渡り廊下から音楽室へ向かう足音を聞いたんだよね」
「ええ」
「時間的にも、それは理科準備室を出た石川の足音に間違いない…よね、みんな」

 安倍は確認する様に全員の顔を見渡す。三人とも同意する様に頷く。飯田はずっと腕を
組み黙り込んでいた。安倍が続ける。

「ところが、音楽室の扉には鍵が掛かっていた。さて石川はどうやって中に入ったのか?」
366辻っ子のお豆さん:02/10/16 12:19 ID:wp9PNaYP
誰も答えられない。皆じっと黙り込んで、安倍の次の言葉を待っている。

「わかんないよね。当然。答えなんてないから。このとき石川は音楽室には入っていない。」
「どういうことですか?」

藤本が尋ねる。

「あなたが聞いた足音を最後に石川は消え、音楽室窓から見た校舎裏へとワープしたの。」
「ワープってそんな…」
「そう。そんなはずないよね。不可能なのよ。これが疑問その1。次に疑問その2」
「その2?」
「石川はどうやって音楽室で犯行できたのか?鍵は一日中保管されていたのに…」

また誰も答えられない。

「鍵はすぐ見える位置にあるから、なくなればすぐに平家さんが気付くはずよね」
「つまり扉以外から入ったってことですか?」

今度は柴田が尋ねる。
367辻っ子のお豆さん:02/10/16 12:26 ID:wp9PNaYP
「扉以外となると窓しかない。でもそれだとまた可笑しな話になるの」
「……」
「石川だけじゃなく被害者も窓から入ったことになる。どう考えてもありえない」
「殺してから音楽室に運んだんじゃないですか」
「人を担いで二階の窓から入る。よっぽどの力持ちでもなきゃ無理でしょ。」
「梨華ちゃんにできる訳ないですね」
「ハシゴやロープの跡もない。マットや台座を使った形跡もない。何もないの」
「扉からも窓からも入れない場所での殺人。密室ですか」
「そうよ柴田さん。これは密室殺人なの。これが疑問その2」

しばしの沈黙。やがて安倍が静かに口を開く。

「でもねあったの。疑問1と疑問2が不可能じゃなくなる方法」

三人の顔に微妙な変化が出る。福田が聞く。

「どんな方法ですか?」
「疑問1は簡単よ。石川が二人いればいいだけ」
「――――!」
「そして疑問2の方。これも石川が二人いるとすれば解決できるの」