304 :
辻っ子のお豆さん:
病院に運ばれたという真里の所へ向かうことにした。親友がこんな辛い時に、ほうって
おける訳がない。圭織の家へ行くのは別に遅くなってもいいだろうと思った。朝日奈警察
署と同じ通りに立地する痛井病院、一応この町では一番の大病院であるそこに真里は運ば
れたそうだ。私はタクシーを呼び一路真里の元へと向かった。
「たった今、鎮静剤を打って眠りに就いた所です」
真里の病室に到着した私を待っていたのは、看護婦のその一言だった。殺風景な病室で
真里は穏やかに寝息を立てていた。起きていても、次から次へと悲しみが込み上げ苦しむ
だけなので、どんな形であれ今は寝ている方がいいと思った。真里の寝顔をしばらく見詰
め、私は病院を後にした。
「星がきれい…」
見上げると夜空に小さな星々が散らばっていた。
(愛ちゃんもこの星のどれかになったのかなぁ…)
自然に涙が込み上げてきた。私はまた一人ぼっちに戻ってしまった。
「ただいまぁ」
誰もいない家に向かって声を出す。結局私は、圭織のマンションには行かず帰宅した。
とても今日は圭織と、事件や犯人について話し合う気が起きなかったからだ。電気も点け
ず真っ暗な部屋で、私はおもむろに倒れ込んだ。このまま何もかも忘れて寝てしまいたか
った。目を覚ますとまた何でもない、普通の毎日が始まるんだ、そう信じていたかった。
(変わってないな私、あの頃と同じだ…)
以前にも同じ様に現実逃避しかけた時期があった。そうあれは今から四年前の出来事。
ふるさとの北海道で、あったかい家族に包まれて、私は何不自由なく暮らしてきた。
16の夏、忌まわしいあの事件が起きるまでは。
(忘れよう忘れようと思っていたけど、やっぱり忘れられないよ…)
家族全員で初めての海外旅行、その飛行機は墜落し、生き残ったのはたった一人。
私だけだった。
救助隊に助けられ、北海道の病院で意識を取り戻した。
幸せな生活から一気に地獄へと叩き落とされた様な感じ。
何度も死のうと思った。生きていたってしょうがないって思った。
そんな私をいつも止めてくれた子がいた。病院で知り合った親友。
(今何してるだろう)
過去を思い返していた私は、遠い地で暮らす親友の名を思い出した。
天涯孤独の身となり絶望にくれた私に、生きる希望と元気をくれた子。
あの子の名前を思い出した。
1. 紗耶香
2. 梨沙子
3. 亜依