サウンドノベル5「赤と青」第六話〜

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274辻っ子のお豆さん
 石川は始めから存在していないと思った。理科準備室にいた石川も、音楽室から見た石
川も、どちらもかなり遠い場所から窓越しにちらっと見ただけ。はっきりと間近で石川と
確認した人は誰もいない。さらに学校の外でも、石川は誰にも目撃されることなくその姿
を消している。幽霊や透明人間でもない限り、そんなのできっこないと思った。そして導
きだされた一つの可能性。

(誰かが石川梨華を演じている)

 かなりの距離がある場所から窓越しに僅かな時間だけ。例えば石川の髪型そっくりのカ
ツラを付けて、夕女の制服を着ていれば、石川と見間違えることだって十分にある。そし
てそれはあの時間、この学校に存在した娘の中にいるはず。

福田明日香、藤本美貴、柴田あゆみ、松浦亜弥、平家みちよ。

 一体誰にそれができた。石川に化けることが可能だった。駄目だ、今考えても分からな
い。冷静に考えて、疑問を一つ一つ解決してゆけば、必ず真実に辿り着けるはずだ。いつ
になく頭が冴えていた。身近すぎる人物の死が、私の頭を活性化させたみたいだ。必ず真
犯人を見つけ出してみせる。
275辻っ子のお豆さん:02/10/05 13:08 ID:MGNM1VT0
 音楽室には圭ちゃんを始め鑑識の人達が、石川の残した手がかりはないかと捜査を続け
ている。私は圭ちゃんを呼びだした。

「圭ちゃん、何かわかった?」
「駄目、分からないことだらけ。どうやって石川がこの部屋を出入りしたのか」

 音楽室の扉には鍵が掛かっていた。開いていたのは一枚の窓のみ。だが冷静に考えてみ
て、この窓から外へ出たとは考えにくい。途中には上り下りできる様な障害物は何もない
のだ。二階から飛び降りて五体満足でいれるとも思えない。

「ロープやハシゴとか、何か道具を使った形跡も探しているんだけど、見つからないし」
「そっか。隣の窓から伝って入ったとかは?」
「それもないよ。この部屋以外の窓も調べたけど全て施錠されていたから」
「窓から出入りしたんじゃないってこと?」
「第一、あの子の死体はどう説明するの。入ったのは犯人だけじゃないのよ」
「だよね。愛が窓から入る訳ないか。じゃあどうして窓は開いていたんだろ?」
「最初に言ったでしょ。分からないことだらけだって」
276辻っ子のお豆さん:02/10/05 13:09 ID:MGNM1VT0
 あの窓一枚を除けば、これは密室殺人となる訳だ。扉には破壊や細工の形跡もない。
考えられるのは純粋に鍵を開けて入り、鍵を掛けて出たということ。だがその鍵は、
用務員室にずっと保管されていたという。もっとも仮に平家さんが犯人だとしたら、
この密室もあっさり解決する訳だが。

「私、平家さんに鍵のこと聞きにいってみる」
「うん。あんまり無理すんなよ、なっち」
「ありがと、でもなっちは大丈夫。じゃあね」

 圭ちゃんに礼を述べ、私は平家さんの所へ向かった。用務員室に着くと、ちょうど中か
ら圭織が出てくる所だった。さすが圭織、いつも私の一歩先にいる。すれ違い様、圭織は
私に告げた。

「彼女はシロだ」
「そう」
「それから、話がある。捜査が済んだら私の部屋に来て」

手渡された紙に、圭織の住むマンションの住所が書かれてあった。
277辻っ子のお豆さん:02/10/05 13:18 ID:MGNM1VT0
「あんたも鍵のこと聞きにきたの?それとも私を疑ってるん?」

 開口一番、平家さんは少し怒り気味に言ってきた。同じ事を何度も聞かれて、いらつい
ているのだろう。

「最初に言っておくけど、私は事件とか全然関係ないから。」
「メリットがないですもんね。あなたが一番疑われる訳ですし」
「あんたわかってるね。鍵の番もあるから、私昼からずっとここにいたのよ」
「何か証拠はありますか?」
「実はね、用務員室の表に監視カメラあるの。再生すればわかるよ」
「見せて下さい」

 早送りで、一日の画像を見た。お昼ごろ、平家さんが来て昨日勤務の戸田さんと入れ替
わっている。13:00頃、藤本美貴が訪れていた。15:00頃、柴田あゆみが。15:30頃、福田
明日香が。19:10頃、再び藤本美貴が。19:30頃に松浦亜弥が。そのすぐ後に福田明日香
が。そして事件が起きた20:00過ぎ、福田に呼ばれて出て行く平家が映されていた。これ
で平家には完全にアリバイがあることが証明された。私は平家さんに話を聞き、この日の
利用者をメモにまとめてみた。
278辻っ子のお豆さん:02/10/05 13:19 ID:MGNM1VT0
13:00 藤本美貴 部活の為、体育館の鍵を借りに来る
15:00 柴田あゆみ 学祭打ち合わせの為、生徒会室の鍵を借りに来る
15:30 福田明日香 資料集めと受験勉強の為、図書室の鍵を借りに来る
19:10 藤本美貴 部活が終り、体育館の鍵を返しに来る
19:30 松浦亜弥 高橋愛を探す為、体育館の鍵を借りに来る
19:40 福田明日香 資料集めと勉強が終り、図書室の鍵を返しに来る

 このうち藤本、柴田、福田の三人は大体いつもこのくらいの時間帯に来るそうだ。この
日いつもと違ったのは19:30の亜弥だそうだ。だが亜弥には、愛を探す為に体育館の鍵を
借りに来たというはっきりとした理由がある。愛の死体を発見した20:00の時点で、何か
しらの鍵を所有していたのは柴田と松浦。警察が来た後、二人はそれぞれの鍵を平家に返
していたが、共に生徒会室と体育館のもので間違い無かった。他には特に不自然な所は見
つからなかった。音楽室の鍵は誰も持ち出してはいなかった。これで音楽室密室説はさら
に完全なものとなった。捜査が行き詰まり、私は私立夕凪女子校を出た。

1. 約束通り、圭織の部屋へ向かう
2. 病院に運ばれたという真里の所へ向かう
3. 気分転換に街を一望できる緑の丘へ向かう