サウンドノベル5「赤と青」第六話〜

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220辻っ子のお豆さん
 窓から石川を見た校舎の裏側へ向かう。到着するとそこには圭ちゃんが一人でいた。他
には誰もいない。ゴミ置き場と焼却炉がポツリとあるだけである。焼却炉には火が点いて
いた。煙が寂し気に夜空へと伸びている。少し臭い匂いがした。圭ちゃんは私達の姿を見
ると首を横に振り、いないと告げた。

「美貴ちゃんは?」
「校門の方を見に行かせてる」
「そっか、じゃああとは駐車場口か」

私と圭ちゃんが話していると、それまで黙っていた福田明日香が急に口を開いた。

「今、音がしませんでした?駐車場の方」
「えっ!」
「車の音」

 慌てて耳を澄ます。確かに聞こえる車の音。私達は顔を見合わせ駐車場へと走り出した。
駐車場には二台の車が停まっていた。一台は用務員の平家さんの物。そしてたった今音を
発したと思われる、もう一台の車には見覚えがあった。
221辻っ子のお豆さん:02/10/02 13:04 ID:YC1JI90W
「圭織?」

 圭織の愛車だった。当然、中から出てきたのは飯田警部補その人であった。応援にして
も、署から着くにはいくらなんでも早すぎる。署から夕女までは車で10分前後の距離が
ある。私が携帯で連絡をしてから、さっきの車音が聞こえるまで、ほんの二三分しか経っ
ていない。私が戸惑っていると圭織の方から話し掛けてきた。

「課長から連絡受けたわ。たまたま近くにいてよかった。詳しい状況を教えて」

(たまたま近くに…?)
(ある?そんな偶然?)
(ううん、今はそんなこと考えている場合じゃない)

 圭ちゃんが圭織に状況をかいつまんで説明していた。駐車場の外には怪しい人影はなか
ったと圭織が言う。私達四人はその足で校門前へと向かった。校門付近では藤本美貴が不
安気にキョロキョロと辺りを見渡していた。私達の姿を見ると、ほっとした顔を見せた。
校門付近にも石川らしき人影はなかったそうだ。石川が姿を消した校舎裏と校門は正反対
の場所にある。わざわざここから逃げたとも考えにくい。
222辻っ子のお豆さん:02/10/02 13:04 ID:YC1JI90W
 圭織の提案で、もう一度手分けして校舎内を探そうということになった。福田と藤本の
二人には、校門と駐車場を見張っている様にお願いした。石川が外部へ出た形跡が無いの
なら、まだ内部に身を隠している可能性が高い。私と圭織と圭ちゃんは、南校舎と北校舎
と体育館に別れて捜査することにした。現在この学校の内部にいるのは、石川を除けば真
里と平家さん、そして柴田あゆみと松浦亜弥の四人だけのはずである。私が受け持った南
校舎には生徒会室と、第一事件の現場にして最初に石川が現れた理科準備室がある。生徒
会室には柴田あゆみがいるはずである。

(彼女が石川をかくまっている可能性…?)

 嫌な考えが頭に浮かびあがってきた。どうして考えなかったのだろうか、共犯者の可能
性を。石川一人でこれだけの事件を起こせるとは考えにくい。共犯者がいる可能性は間違
いなく大きい。そしてそれは、今この学校の中にいる誰かである。玄関を抜け階段を上が
ろうとしたとき、二階から誰かと誰かの言い合いが聞こえた。一瞬、石川と共犯者?かと
思ったが、どうもそうではないみたいだ。柴田と松浦の声であった。
223辻っ子のお豆さん:02/10/02 13:05 ID:YC1JI90W
「石川を出せぇ!」
「ちょっと離してよ!知らないって言ってるでしょ!」
「ウソツケ!あんた石川の友達なんでしょ!絶対あんたが隠してるんだ!」

 生徒会室の中で、亜弥が柴田あゆみに掴み掛かっていた。私は慌てて亜弥を後ろから引
っ張り止めた。亜弥は泣いていた。私の腕の中でもがきながら叫んでいた。こんな亜弥ち
ゃんは見たことなかった。親友を失い自我を失いかけているんだ。一方、柴田あゆみの方
はもう落ち着きを取り戻していて、高校生にしては大人びた憂いの表情を浮かべていた。

「刑事さん。本当に、犯人は梨華ちゃんなんですか?」
「え?」
「私の知っている梨華ちゃんは、私の友達の梨華ちゃんは、心のキレイな女の子でした。」

 脳裏にあの夕暮れの坂道が浮かんだ。私が唯一、石川梨華と言葉を交わしたあのシーン。
確かにこんな残酷な事件を起こす子には見えなかった。だが事実、事件は起きていて、彼
女がその場に居合わせたのだ。それは否定できない事実なのだ。
224名無し募集中。。。:02/10/02 13:09 ID:ZWzs9LRC
225辻っ子のお豆さん:02/10/02 13:14 ID:YC1JI90W
 しばらくして、虚ろな真里を抱きかかえた平家さんがやってきた。ようやく落ち着いて
きた亜弥と、物憂げな表情の柴田、そして私の五人がこの場に集まることになった。いつ
も元気に私を励ましてくれていた真里が、まるで魂の抜け落ちた人形みたいになっていた。
誰も何も言わなかった。やがてパトカーのサイレンが聞こえてきた。署からの応援が来た
んだ。私達は外へと下りていった。圭織と圭ちゃん、福田と藤本の四人も外にいた。結局
石川梨華はみつからなかった。その後、警察が学校付近や駅前まで捜査したが、その足取
りすら掴むことはできなかった。まるで幽霊の様に、石川はこの学校、いやこの町から姿
を消していたのだ。

1. 石川は幽霊なのかと思った
2. 石川は脱走の名人なのかと思った
3. 石川は透明人間なのかと思った