サウンドノベル5「赤と青」第六話〜

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180辻っ子のお豆さん
 私はひとみさんの想いも含め、ありのままを話しました。一体、真希さんはどんな反応
をするのか、私は恐る恐る彼女の顔を覗き込みました。真希さんは笑っていました。

「よっすぃーが私を?それは有り得ないよ、だって…」
「だって?」
「うーん、なんつーかなぁー。わかるんだよね、似てるから」
「じゃあののの考えていることも、わかりますか?」
「のんちゃんの?アハハ〜そりゃわからん」

 やっぱり、私なんかのことより、真希さんはひとみさんの気持ちの方がわかるんだ。十
年来の付き合いであるひとみさんに、昨日今日逢ったばかりの私が敵うはずないよ。言わ
なきゃ良かったという後悔が、胸の内に押し寄せてきました。私が肩を落とし、あからさ
まに落ち込んでみせると、真希さんが言いました。

「わからないから、もっともっと知りたいって思う様にもなる」
「え?」
「自分にない物を持っているから、好きになるってこともある」
「…真希さん」
181辻っ子のお豆さん:02/09/29 20:07 ID:jHFqJ074
 しゃべっている内に山を登りきりました。辺りを一望できる島一番の高台です。人気の
無い小さな島、その周りは見渡すばかりの青い海。もう生きてここから出ることはできな
いのではと思わせる程、圧倒的なブルー。不安に押しつぶされそうな私に気付いてくれた
のか、真希さんが私の体を優しく包み込んでくれました。

「怖いです。助からないんじゃって…もう生きて帰れないんじゃって思う…」
「大丈夫、きっと大丈夫。絶対生きて帰るんだから。ほら泣かないの」

 真希さんの指が、頬を伝う私の涙を吹き消す。真希さんは、そのままギュッと私の体を
自分の胸元まで引き寄せました。そこで私は気付きました、彼女の体もか細く震えている
ことを。怖いのは自分だけじゃないってことを…。

「はっきり言うよ」
「うん」
「私は辻希美を愛している」

 震えが止まりました。不安が掻き消えました。その言葉が私を無敵にします。どんなに
厳しい状況でも、何だってできる様な気がしてきました。
182辻っ子のお豆さん:02/09/29 20:08 ID:jHFqJ074
「ののも後藤真希が大好き。大好き、大好き。世界で一番大好き」

 真希さんの震えが止まるのがわかりました。私は何度も何度も言い続けました。それで
彼女の不安を少しでも消すことができるのなら、何度だって言う。

大好きだ、大好きだ、大好きだ。

 顔を上げた私の眼の中に、聖母の様に微笑む真希さんの眼が写る。彼女に届くように、
私はうんと背伸びをしました。私は目を閉じました。すべてを彼女に預ける。やがて唇と
唇が、その距離をゼロにする。

辻希美を愛する後藤真希。
後藤真希を愛する辻希美。
地図にも載っていない、世界の何処かの小さな島で、二人は一つになりました。
183辻っ子のお豆さん:02/09/29 20:09 ID:jHFqJ074

真希さん、約束…

なあに?

生きて帰ったら、もう一度キスして

ん…いいよ

世界の何処にも見当たらない様な 約束の口付けを原宿でしよう

何その詩?

あさ美がよく言ってたの

ふうん、わかった。帰ったら一緒に原宿行くか

うん、絶対だよ
184辻っ子のお豆さん:02/09/29 20:11 ID:jHFqJ074
私は真希さんと、大事な約束を交わしました。
手を繋いで再び歩き始めました。
幸せでした。
この幸せが、いつまでも続くと信じていました。


闇は芽生えていた
生存者はたったの七人、小さな孤島
希美の知らない場所で、闇は確実に芽生えていた


これが真希と希美の最期の会話になる
185辻っ子のお豆さん:02/09/29 20:12 ID:jHFqJ074


〜第六話 終〜