111 :
辻っ子のお豆さん:
「真希さんです」
私はありのままの気持ちを素直に答えました。ひとみさんは眼を丸くして驚いて、そし
てゴロンと寝転がって言いました。
「こいつは強敵だ」
「え?」
その言葉の意味するもの。まさか、本当にひとみさんは真希さんのことを…。目の前が
真っ暗になってきました。ひとみさんが恋のライバルになるなんて。急に嫌われたらどう
しようと思いました。
「のののこと、嫌いになりました?」
「ハァー?そんなんでなる訳ないじゃん。」
「よかったぁ」
「もういいや話題変えよう。調子狂う、あいつといるみたいだ」
「あいつって?」
「小さい頃、よく私の後ろ付いてきた子。高橋って言うんだけど…」
ひとみさんは体を起こし、月を見ながら話始めました。幼き日の思い出、孤児院の外で
よくなついてきたという娘の話。
「ののみたいに、小さくてすげえ可愛い奴だったんだよ。」
「へー、その子は今どうしてるの?」
「わかんない。中学の時、家族の事情とかで知らない町へ引っ越しってったから」
「そうなんだー」
「確か私の一つ下だったから、もう高校生になってるかな」
月明かりがひとみさんの横顔をキレイに輝かせていました。彼女は懐かしい過去を思い
出し、少し感傷に浸っている様でした。
「多分、それがね。私の初恋だった。」
「…初恋」
「あの子が引っ越して行った日。私、めちゃくちゃ泣いたんだよなー」
「…」
「そんな私を、訳も聞かず抱きとめてくれたのは、ごっちんだった。」
「真希さんが…」
それが原因でひとみさんは真希さんを好きになったのかなと思いました。満天の星空はさらにその輝きを増していました。それを見上げたひとみさんは大きな声で言いました。
「高橋も今頃、この星見てるかなー?」
本当はひとみさん、まだその高橋という子のこと、好きなんじゃないのかなと思いまし
た。でもそれは口に出さず、私は素直に応えました。
「きっと見てますよ。同じ星を。」
例え世界の何処にいても、どんなに離れ離れになっても、空は一つ。星も同じだよ。
「そうかなー。あいつも同じ星を見てるかなー。」
「うん。私達みたいに笑って、絶対この星を幸せな気分で見ているよ」
「やっべー。なんか超会いたくなってきた」
「会えるよ。生きてさえいれば、必ずまた会える」
生きてさえいれば…
ガサッ…!
その時です。後方の草陰から物音が聞こえたのです。私とひとみさんは咄嗟に立ち上が
って振り返りました。ザザザ…。森の中を早足で遠ざかって行く人影が、確かに見えまし
た。森の奥には月明かりが届かない為、それが誰かまでは判別できませんでしたが。追い
かけようかという考えも少し浮かびましたが、この時点ですでに相当遠くへ逃げられて、
とても追いつきそうにありませんでした。
「誰だろう?」
「とりあえず、小屋に戻ろっか」
「うん」
ひとみさんの言う通り、早く小屋に戻った方がいいような気がしてきました。私達は早
足で元来た道を戻りました。
扉を開けると、中では皆が寝息を立てていました。出る時には起きていた梨華さんも、
あさ美の横ですでに眠りに就いていました。麻琴は大口を開けてイビキをかいていました。
真希さんもZzzzz…と完全に寝入っていました。とりあえず一安心、みんな無事みたいで
す。あれ、誰か忘れている様な…
1. そうだ!里沙ちゃん!里沙ちゃんがいない!
2. いや、これで全員だ